第25話 頑張れ木葉ちゃん(2)
「はあぁ……」
なんか……頭を抱えてしまう。実際には嘘だ。予定なんてなくて、いつも通り部屋でグダグダしているだけだ。
「木葉……あんた、あんな超優良物件の誘いをなんで断るのよ!」
同僚を『物件』呼ばわりする大変失礼な同僚、槙村美希。突っ伏してる私をブンブンと揺らす。
「超……優良物件ねぇ」
「東大卒で人当たりもいいし、仕事もできる。私らの憧れを、こうも簡単にフッてくれちゃって……あんた、芸能人のイケメン俳優でも狙ってるわけ!?」
「そんな訳ないじゃん」
「だったら! 彼氏いないんでしょ!? 可愛いのにそのバーサーカーっぷりで『年齢=彼氏なし』なんでしょ!?」
「おい……二言くらい多いんじゃない?」
「三言でも、四言でも言うよ! 私、悔しいよ。あなた、私なんかよりずっといい子なのに。そんな私に超イケメンで高身長の彼氏がいて、あなたにいないなんて」
「ああそうね、あんたぶん殴られたいわけね」
そんな脅しにも屈せず、美希は自慢気に携帯で写真を見せてくる。親友のこうした間合いはウザくもあるが、本心を包み隠さずに見せられて嬉しくもあるから不思議なものだ。
そんな時、一件の仕事メールが。明日、新谷さんに取材を申し入れたいというフリーライターだ。なになに……『お笑い芸人の転落。なぜ、新谷大二郎はR-1回戦で敗退したのか』か。一度上がって落ちた芸人には、こういった依頼は後を絶たない。まるでハイエナかのように、芸人のプライドを根こそぎ奪っていくのだ。
そんな彼らに対しての答えは一つ……『喜んでお受けいたします』。落ち目の芸人にプライドなんて必要ない。
「……ふーん。明後日にするんだ」
「ちょっと、美希。勝手に人のメール見ないでよ」
「明日って新谷さん予定あったっけ?」
「……ええっと、なかったっけ?」
「フフ、なーんだ。そういうことか」
「……なにが?」
「フフフフ……殺される前に退散しまーす」
小悪魔のような微笑みを見せながら、美希は逃げていった。
「はぁ……まったく」
なにを言っているんだ。単にスケジュールの勘違いをしていただけで、別に私にはなんの意図もーー
♪♪♪
その時、新谷さんから着信が。
「……」
なぜだろう?
なぜか、胸の奥がギューっとなる。
「……もしもし」
「あっ、木葉?」
「は、はい」
「明日の俺の仕事は?」
「えっ……と、特にないです」
「……そうか」
「あの……それだけですか?」
「ん?」
「いや、いつもはメールだから」
「……ああ、ひとつだけ」
新谷さんの言葉を聞いたとき、またドキンと胸が高鳴る。
「あの……」
「は、はい」
「オッチョムソンマイットーン兄弟という芸名で売り出すのはどうかな?」
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