第24話 頑張れ木葉ちゃん
ジリリリリリリリ……
ジリリリリリリリ……
ジリリリリリリリ……
『木葉、起きなさーい。起きなさーい。木葉、起きなさーい。起きないと、お仕置きよー。木葉、起きなさーい……』
「う゛ーーーーーーーーーっ」
大量に鳴る目覚まし時計のアラームとお気に入りの『峰不二子アラーム』を解除ところから、私の一日は始まる。カーテンを開けて天気を見ると、今日も曇天。
すぐにポットのお湯でダージリンティーを……なんて優雅なリア充生活をすることもなく、テレビをつけて芸能ニュースを確認。
「はい、今日はですねR−1優勝者のハイハイハイポニーに来てもらいましたー」
プチッ……
朝から嫌なものを見てしまった。
あの
あの男は、自分にボケの才能が全くないことを未だ気づいてもいない。
♪♪♪
その時、メールがきた。
『おい、木葉今日の収録って何時?』
『20時からです』
『おそっ٩( ᐛ )و』
……なんなんだ、どんな気持ちなんですかあなたは。
『R–1優勝後に忙しくなると思ってスケジュール極力空けといたんですけどね』
・・・
返信がない。なんて、ヘタレな芸人なんだろうか。まあ、あのネタで優勝なんて天文学的確率であり得ないから真っ赤な嘘なのだが。
シャワーを浴びて、申し訳程度のメイクをして家を出るまでを30分でこなすことが出来るのは、ショートカットのお陰だろう。最近は、朝からバッチリメイクした戦闘力(女子力)ベジータ級の子もいるが、私にはどうにも無理だ。
駅までは徒歩で5分、走って2分。圧倒的なせっかちの私は基本はランニングだ。
「あっ……」
「おっ、よぉ!」
朝っぱらから、新谷さんが出現した。
基本的には同じマンションの下の階なので、メタルスライムよりは遥かに遭遇率が高い。
「どーしたんですか?」
「いや、コンビニ」
「……コンビニなんて行ってる場合なんですかねぇ」
「いや日常生活!?」
「そんなことより、ネタ書いてくださいよ」
「俺の生活を『そんなこと』呼ばわり!?」
「……もうコンビニと結婚しちゃえば?」
「コンビニで朝飯買うだけでそこまで重大決断を!?」
ひと通り腐れ芸人のアフターケア(会話)も終了し、会社へと向かう。芸人というのは生意気にも繊細なので、こう言ったフォローが欠かせない。
もう、私がいないとなんにもできないんだから。
本吉株式会社。名実ともに日本一のお笑い会社であり、笑えないほど薄給なダークグレーな会社である。
「おはようございます!」
「「……はょ」」
こ、声が死んでいる。まるで、ゾンビのような表情の同僚に、本当にここはお笑いの会社なのかと疑いたくなる。
すぐにパソコンを開いて、新谷さんのスケジュールを確認するがいつも通り『凪坂ってナギナギ』しか入っていない。元相方の古谷と『新旧タニタニ』というコンビを組んでたときは、まだ営業も入っていたのだが。
「おはよっ、木葉!」
その声に振り返ると、同期の三木陽平が爽やかな笑顔を浮かべていた。この人は、東京大学卒なのにも関わらずこの本吉に入社してきたという変わり種だ。しかし、その甘いマスクと愛嬌のある笑顔で、同期のでは私以外に告白していない女子はいない。
「おはよう」
「あの……「明日って、木葉の誕生日だよな?」
「う、うん」
「もしよかったらだけど一緒にどっか行かないか?」
「あっ……えっと……すごく嬉しいんだけどちょっと予定あるんだ」
「そう……なんだ。了解、じゃまた誘うわ」
特に取り乱した表情もなく陽平は颯爽と去っていった。
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