第42話 収録(3)



「……東郷……お前あれか、お前は新年一発目の抱負として『カレー』って書いた。それでいいのか?」


「はいっ!」


「いやよくねーよ!?」


 そもそもカタカナだし! 書き初めって普通漢字だし!


「ほらっ、私ってカレー推しじゃないですか。それって個性だと思うんです。週一でカレーも食べるし、CoCo壱大好きだし、スープカレーも邪道だって思わないし」


「東郷……お前は自分が思ってるほどカレーを愛してないと思うぞ」


 カレー好きなら、毎日カレーだし、CoCo壱は基本的にみんな好きだし、スープカレーうんぬんはもはや好みだし。


「で、今年はカレー大使狙っちゃおっかなと思ってます。もっともっとカレーのお仕事やりたいって、そう思ってカレーって書きました! はい、終わり」


 そう言って、勝手に座る東郷。


 もう、言いたいことだけ言ってスッキリした顔をしている。


 典型的な14歳。思春期にありがちな自分勝手感を如実に出してきた最年少エセカレー好き美少女。


「……はい、じゃあ次行きますか」


 自己完結してしまった少女に、もはや、なにも言うことはない。


「はい!」


「おっ、佐々木。お前も積極的だな!」


「佐々木ゼミナールに行くのはー……今でしょ!? 永遠の落第アイドル、佐々木美蘭です」


「うん、それは知ってる!」


 お前たちミーティングでなんか決めてるな! 絶対に自己紹介しようってなってるな。


「じゃあ、まあ次は佐々木行くか……お前の新年の書き初めは……」


『たとえ受験に落ちたっていいじゃないの

 だって

 佐々木ゼミナールが

 あるんだなー』


「みつお風!?」


 とりあえず全力でみつおさんに謝って欲しい!


「受験生の皆さんにエールを込めて」


「落ちてもいいとかってなってるけど!?」


 この時期にそれは言っちゃダメなやつでしょ。


「私、今年は受験特使を狙ってるんです」


「初めて聞いたよそのポジション!?」


 君はもしかして騙されているんじゃないのか!?


「受験生たちにとって、癒しって重要だと思うんです。その癒しの部分に私がなれればなって……エヘヘ」


「お前、それだめんずウーマンって奴じゃないのか」


 新年一発目で、バリバリ追い込みの時期に癒やしてどうするんだよ。


「今でしょ!?」


「今じゃねーよ!」


 むしろ今は一心不乱に勉強に邁進すべき時だろ!


 癒しが必要なのは、むしろ3月後半だろ!


 そもそも林先生は東進ハイスクールだし。


「どうでしょうか?」


「どうでしょうかと聞かれたら俺は絶対にダメだと答えるよ座ればか!」


 シュン。


 と落ち込みながら座る佐々木。


 ……これは、ツイッター炎上決定だな。


「元気だしなよ」「ほら、新谷さんて高卒だからさ」「結構、頭悪かったらしいよ」「可愛そう」「いろいろと可愛そう」「頭も性格も悪いのは厳しいね」「厳しいよ、いろいろと」「お金もないんですって」「まあ、お金も……でも、性格がよければ」「性格は悪いんだって」「あっ、そうだった」


 みんなが代わる代わる佐々木を慰め、影で、聞こえる程度に俺の悪口を言っている。


「はい!」


「そうか、柿谷。すごく嫌な予感しかしないけどお前も出したいのか!」


「んばばー! んばばばばばばばばーー「もう自己紹介はいいんだよ!」


 どっちにしろうんばば娘だろうがテメーは!


「まあ、積極的な姿勢は悪くない。俺は今、その言葉を凄く後悔しているが、ここまで来たら後には引けない。これが……柿谷の書き初めだ!」




『末端』






















 なにが!?

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