第27話 頑張れ木葉ちゃん(4)
「……」
変な格好をした、変な発言をした、変な男がいる。
通報しようかしら。
「……面白くなかった?」
「今の私の表情を見てどう思いますか?」
「……イマイチ」
コロスゾ。
「ったく、なにしに来たんですか?」
期待させといて……
いや、別になんの期待もしてないんでど。
「いや、新ネタを思いついたから感触だけ聞きたくって。そうしたら、たまたま年休だって言うから」
「わざわざ休日に乗り込んできて……そんなに会心のネタでもないのに」
「いや会心だったよ!? 少なくとも俺の中だけは」
「はぁ……」
もはや、ため息しかでないというのはこのことか。
「美術館シリーズはもっと色々あるんだ」
「……多分一ミリたりとも面白くないと思いますけど、どうぞ」
「じゃあ……」
軽く流すんじゃない。
なんて強靭なスベりメンタルを持った男なんだ。
・・・
『種を蒔く男』
「……」
『座り込む男』
「……」
『遠くを見つめる男』
「……」
つ、つまらん。
『乳を絞る男……家でもね』
「……」
『牛乳を飲む女……もう5杯目だ』
「……」
『陽気に酒を飲む男……お葬式の日に』
「……」
壮絶につ、つまらん。
「ど、どうだった?」
「新谷さん……めっちゃつまんなかったです」
「……まあ、最初だからね」
「いやそう言う問題じゃないです」
「テメエにネタ作る苦労がわかんのか!?」
「……休日押しかけてネタを強制的に見せてきて逆ギレですか……ぶん殴りますよ」
「ごめんなさい」
すごく素直に土下座するプライドなし芸人。
「このネタって、漫才用でしょう? ツッコミありきで考えてるからピンネタじゃ生きないですよ」
面白いとか面白くないとか、まあ今のままだと壊滅的に面白くないが、それ以前の問題だ。着眼点などは悪くないとは思う。
最初は普通の美術館ッポいタイトルから入って、徐々に変化を織り交ぜて行く。それは明らかにコンビ漫才的な手法だ。
「……すごく真っ当なご意見ありがとう」
新谷さんは土下座しながら、そのまま崩れ落ちる。
「前のR−1だってリズムネタとか言って。あれって、コンビでうまくコンビネーションを見せるからこそのもんでしょう?」
R−1はもともとピン芸人としての実力が問われる大会だ。コンビネタの方が生きるのに、敢えてピンネタにして披露したところで、審査員に一目で見破られてしまうのだろう。
そもそも壊滅的なオンチであったので、その点も破綻して史上最低得点を叩き出したのだが。
「……」
「やっぱり、新谷さんはコンビがいいと思いますよ。誰かいないんですか他に」
「……ははっ、もう俺は終わってるんだって。Mー1で史上最低得点出して相方からソッポ向かれた男だぞ? そう簡単に……見つからねえよ」
「ひ、ひどい……誰がそんなひどいことを」
「貴様が取材を入れた辛口フリーライターの奥田さんだよ!」
そ、そうでしたっけ?
「まあ、相方の件は私も探しておきますから。今は『凪坂ってナギナギ』にもっと力入れてくださいよ」
「……はぁ。わかったよ」
「彼女たちから得られるものもあると思いますよ?」
「ほぼ毎回絶望しか味わってないけどな……わかった……邪魔したな」
そう言ってトボトボと歩いて行く後ろ姿が寂しそうだった。
「……あ、あの新谷さん」
「ん?」
「私、今日暇なんですけど……その……美術館でも行きません?」
「美術館……」
「あ、あくまでネタの取材のためですよ。
「行く! 行くよ! わははは、実は気に入ってんだなあのネタ?」
「……なんとでも言ってください」
我ながらマネージャーの鏡だと思う。
あくまで仕事。
仕事なのだ。
「じゃあ、20分後に下で」
「わかった」
そう言って、外へ出ていく新谷さんを見送って。
「ああ……いい天気だ」
今日が快晴であったことを思い出した。
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