収録(3)
収録開始から30分。一向に止められる様子はない。すぐに、ツイッターを確認したいが本番中なのでそんなこともままならない。
止められないならそのまま行くだけだ。
「さあ、お題を変えましょうか?次は、仮にスキャンダルにあったときの謝罪会見ーーーーーーーー!?」
こ、このスタッフ。ここぞとばかりに壮絶に柿谷をオモチャにしてんな。
「「「「いぇー!」」」
「盛り上がっちゃダメなところで盛り上がるな!」
「なんでですか!」
「お前のせいだよ柿谷!」
「ごめんなさい!」
「それは謝罪会見のときにとっておけ!」
「はい!」
「よし、いい返事だ」
「いえ、質問です!」
「そこは返事であれ!これ以上なんかあるのかお前は!?」
もうちょっとぐらいは自嘲しておけ。
「フリでいいですか?」
「お前は本意気でやれ!」
「……はい」
「すごくやりたくなさそうな声を出すな」
もはや謝る気すらないだろうが。
「はい!」
「おっ……なんだ、キャプテン本田?」
「最初は柿谷がいいと思います!」
「てめーらの血は何色だ!?」
あまりにも酷いキャプテンだなおい!
「全会一致です」
「てめーらの血は何色だ!?」
お前らには優しさというものはないのか。
「私は全然気にしません!」
「お前は気にしろ柿谷!」
もうスタンバイの前ぐらいに土下座しておけ。
「そろそろいいですか!?」
「お前が仕切ろうとするな!」
「さっさとやりましょうよ」
「さっさと済まそうとするな!」
なんなんだよこいつ……開き直り過ぎてトランス状態になっちゃってるじゃねぇか。
「さあ、仕切り直していきましょう」
柿谷はスタンバイされている席に座り、真っ直ぐにカメラを見つめる。
さっきまでの表情とは違って、スッと息を飛ばす。
「……私は、恋をしました。初めて人を好きになって、こんなに人を好きになって」
「「「……」」」
「その人のことが大好きだったから……本当に大好きだったから、私は彼の手を握りました。それが……メンバーを……ファンを裏切る行為だと知ってました。私は……それを知ってました」
「「「……」」」
「でも……私はその手を握りました。彼が私のことを好きじゃないことは知ってました。でも……私はメンバーを……ファンを裏切ってその手を握ったんです。私はセンターになったときの、自分の覚悟を裏切ったんです」
「「「……」」」
「もう、いいよ」
それ以上は。
「いえ……私は凪坂46のセンターです。その責任の重さはわかっているつもりです。その覚悟も……できているつもりです」
「もう、いいって」
これは、バラエティ番組なんだから。
笑い飛ばしてやればいいんだ。
笑い飛ばしてやれば。
「いいえ、新谷さん。私は……もうこれ以上、自分に嘘はつけません。私がセンターになったときの私の覚悟に、嘘はつかないんです」
「……」
もうそれ以上は。
そう何度も言おうとした。
でも、アイツの表情を見てると。
どうしても言葉がでない。
「私は……凪坂46を……」
「……」
言うな。
それ以上は。
『ドッキリ』
「……ん?」
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