第9話 アンケート
収録前の楽屋でネタを考えていると、突然マネージャの木葉入ってきて、バサッと大きな冊子を俺の前に置く。
「……なんだこれは?」
もうちょっと、愛想のいい置き方、あんだろーが。
「アンケートです」
「えっ? アンケート」
「ええ……アイドル番組には恒例と言えますね」
木葉は、いつものように水筒の番茶をズズッとすする。
「で……俺に、これを読め……と?」
「もちろん! MCでしょう?」
「それは……そうなんだが……」
「だが?」
「俺……もうすぐ『R–1』の予選なんだけど」
伝わらないかな……曰く、そんな暇じゃねーよ。
「頑張ってください!」
なにとは言わずに、そう言い残して、木葉は楽屋を出て行った――そうか、テメーは脳みそ腐ってるんだったな。
「と言うか、アンケートって……」
まあ、MCが番組内容の中身を見るのは、当たり前っちゃ当たり前だが……
*
Q.番組MCをどう思いますか?
こ、この質問は、なんか……ドキドキするな……まずは東郷か……えっと、あの子はどういう自己紹介だったっけ?
『ゴーゴーカレーに、ゴーゴー! そして、私は、トー!ゴー! こと、東郷真那です』
……イマイチ顔が思い出せないが、カレーは好きそうだな。
Q.番組MCをどう思いますか?
A.女として見てて怖い
「見てるか!」
そもそも顔を思い出せないし! ってか、ませてんなー。こいつ何歳だよ……
!?
13歳……どんだけ変態だ俺は!?
「ったく……どんなだけマセガキだよ」
次は……佐々木か……自己紹介は……
『佐々木ゼミナールに行くのはー……今でしょ!? 永遠の落第アイドル、佐々木美蘭です』
……林先生は東進ハイスクールだけどな。しかし、落第アイドルとは……なんとも縁起悪い……それに、全然顔が思い出せない。
それは一重に、イメージと全然と結びつかない自己紹介のせいだと思うのは、俺だけだろうか。
Q.番組MCをどう思いますか?
A.女として見てて怖い
「テメーもか!?」
全然見てねーよ!
「って貴様も13歳か!?」
完全にロリコンだと思ってんな俺のことを!
「……年上……年上はいないのか」
せめて、女として見ても支障がないような年齢のアイドルはいないのか……13歳……15歳……17歳……22歳!?
いるじゃないか、最年長宮下が……ええっと自己紹介は……
『宮下と言うのは嘘! 本当は宮上だから! 宮上だから……はい! 宮下愛花です!」
……こいつらのイカれた自己紹介、なんとかならねーのか。
Q.番組MCをどう思いますか?
A.真那を女として見てて怖い
「やっぱ13歳なのか!?」
どんだけロリコンなんだお前らの俺像は!?
なんか、いいこと書いている奴はいないのか……番組MCとして、リスペクトしている奴は……
・・・
ん?
Q.番組MCをどう思いますか?
A.慣れない私たちを精一杯頑張って引っ張ってくださって、凄く頼りになるMCだと思っている。まだ、2回しか収録をしていないけれど、本当に感謝しています。
だ、だ、誰だこの子は……!? 柿谷芽衣……な、なぜあのうんばばば娘が……いや、そう言えば2回も『昔今庵』で励ましてるんだ。当然といえば当然か。
――それにいつも、私たちのことを考えて話題を振ってくださっていることがわかる。本当に私たちは人見知りで、でもそんなどうしようもない私たちを暖かく見てくださっているのを凄く感じる。
……ええ子や。凄く、いい子やったんや。
――でも、いい人すぎて、ちょっと……困る。私は、もしかしたら……新谷さんのことを……
「お、おい! ちょっと……それは、さすがにアイドルと番組MCは……」
――という妄想をしていそうで怖い。
……決めた、次の収録でこいつらぶん殴ろう。
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