第3話 収録

          *             


「さあ、始まりました。凪坂ってナギナギー! 司会は私、新谷大二郎がお送りします。そして、彼女たちが……凪坂ちゃんだぁ!」


「「「……」」」


          ・・・


 沈黙の音が聞こえる……緊張してるにもほどがあるだろ。


「……はい、ということで第1回放送がついに始まりましたけどもね! まずは、メンバーの自己紹介いってみようか。誰か、我こそはって人?」


「「「……」」」


 お、お前ら……この業界ナメんじゃねーぞ。


 心の中でつぶやくが、収録はすでに始まっている。イライラしている時間はないし、説教垂れるような暇もない。


「じゃあ、左の子からいってみようか」


「……はい……や……あの」


「ん?」


「右からの方が……」


 ……どんだけコミュ症なんだお前らは。


「ダメ! 君からね。はい、よろしく」


「……はい!」


 やっと、やる気になったところで若干安堵する。意を決したように立ち上がる姿が凛々しいポニーテールの美少女だ。


「海なし、人なし、味気なし、山はあっても山梨県出身の梨好きアイドル海原林檎うなばらりんごです!」


          ・・・


 いきなり県ディスリー!?


 生放送なので、カットはできない。絶対に放送後ネットが荒れる……山梨県民からの苦情電話が殺到する。そして、山梨やまなしで苗字が海、名前が林檎という、もはや絶対に山梨県で生まれてはいけないであろう皮肉なネーミング。


 しかし、こんなところで動揺するわけにはいかない。なんとか、MCとして建て直しを図らなければ。


「はい! ということで、海原はなんて呼ばれてるのかな?」


「……詐欺師……です」


「なんで!?」


 なにそんな酷いあだ名つけられちゃってんの!? いじめられてるんじゃないのか君は。


「……山梨県出身なのに……林檎……だから」


「可哀想だね! それは、すぐに変えた方がいいね!」


 可及的速やかに。


「じゃあ、なにか、考えてくれますか?」


「俺? うーん……まあ、シンプルだけど『アップルちゃん』とかがいいんじゃない?」


 芸人としては、ひとイジりしたいところだけど、まだ緊張してるみたいだし、下手なことをして泣かれちゃかなわん。


「それは……いい……です」


 ……チキショウ。


 どうせなら糞みたいなアダ名つけてやればよかった。


「じゃあ、次、隣の子行ってみようか」


 ツインテールが可愛い女の子だな。まだ、小学生……にも見えるけど、16歳か。


「はい……だっけっど、気にーなる♪ 昨日よりもずーっと♪ お洒落なー君、アイツの笑顔に会いたい♪ 北海が生んだマーマレード娘、石川さゆりです!」


 ああ、アニメ『マーマレードボーイ』の曲をオマージュしてんのね。まあ……ベタな自己紹介だけど、可愛いじゃん。


「石川はなんて呼ばれてるの?」


「……嘘つき……です」


「だからなんで!?」


 君らみんないじめられてるのか? どこのどいつだ、いじめてるボス的存在は。


「一昨日、『別にマーマレードボーイ好きじゃない(笑)』って呟いたら……炎上しちゃって」


「SNSには気をつけようね!」


 これ以上ないくらいの自業自得じゃないか。自己紹介に組み込んでおいて、一番ディスっちゃいけないデリケートゾーンだろ。


「あの……私もなにかアダ名つけてもらえますか?」


「お、おお……じゃあ……イシサユなんてどうだ?」


「ちょっと……微妙なんで、自分で考えます」


 ……今日テメーのツイッターにめちゃくちゃ悪口書き込んで炎上させてやるからな。


「じゃあ……次は隣の子ね」


 そう言いながらも……次の子には、やはり瞳を奪われるな。凄い透明感のある子で、顔も小さいしスタイルもかなりいい。この芸能界で結構やってきたけど、原石感が半端じゃない。まあ、それはこの凪坂46全体にも言えることけど。


「……はい」


 キュッと唇を結んで、真っ直ぐにカメラを見つめる。モニター越しにも吸い込まれそうになるほどの引力。この子は間違いなく、将来の……いや、アイドル界のセンターに――「んばばー! んばばばばばばばば、うんばばばばばばばばば、うんばばばばばばばばばばばばばば、んばばばー!」


「……」


「「「……」」」


               ・・・



「はぁ……はぁ……垣谷芽衣かきたにめい……です」














 続く……のか?

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