第20話 楽屋隠し撮り


 梨元プロデューサーのオーラに圧倒されて、アイドルたちの楽屋盗撮を敢行することになった。彼女たちのマネージャーは断固OK。スタッフもノリノリ。すなわち、汚い大人たちの汚れ収録の幕が開いた。


「さあ、始まりました。凪坂ってナギナギー! 司会は新谷がお送りします。そして、彼女たちが……誰もいないーーーーーーーーー!?」


         ・・・


 いや、まあいてもいなくても、いつも通りの静寂だけども。


「ご心配なさらぬよう皆さん! 今日は、な、な、なんと! 凪坂ちゃんたちの楽屋に隠しカメラを仕込んで観察しようの会ーーーーーーーーーー!?」


 ……今更だけど、一人でMCって、キツくないか?


「さあ、早速隠しカメラを覗いてみましょう!」


 父さん、母さん、ごめんなさい。息子は、少女たちの生態を覗き見する男になりました。


「杉田玄白ー! 杉田玄白ー!」


「もぉ……珠子やーめーてーよー」


「杉田玄白! 解体新書見せてください!」


「やめてったらー」


 け、結構ハマってくれてるじゃないか。スタジオであれだけスベったのに。


「玄白……玄白……玄白」


「れ、連呼しないでよー」


「ゲーンパク、ゲーンパクッ、ゲーンパクッ」


 どうでもいいけどしつこいな尾崎珠子。


「……ふぇえええええ」


 ほら、泣いちゃったじゃないか。


「ご、ごめん。ちょっとやり過ぎちゃった」


「……ヒック……ヒック……」


                ・・・


「ご、ごめんなさい」


「……」


 ど、どーすんだよこの空気。杉田玄白でイジった俺が悪者じゃねーか。


「はい、みなさん収録でーす」


「「「はーい!」」」


 ……俺じゃないと、返事がいい。意外に、嫌な事実を発見してしまった。


 ガチャ……


 おっと……石川さゆり……どうしたんだろう……忘れ物かな。


……いや、これは違う。明らかに、杉田玄白ーーもとい、杉田姫花の机を見つめてい る。これは、まさか……嫌がらせ?


「……」


 黙って、視線だけを動かしている……誰もいないことを確認しようとしているのか……もしかしたら、こいつはとんでもない性悪娘なんじゃないだろうか。


 っと……カレンダーをとった……まさか……こいつ隠す気じゃ……


 !?


 こ、こいつ……カレンダーの月をシャッフルしてやがる……なんて、地味な嫌がらせ。なんたる、しょうもない、嫌がらせ。


「フフフ……」


 ひとしきり満足気な表情を浮かべて、石川は収録に向かっていった。


 ……なんなんだ。何がしたかったんだ、あいつは。


                ・・・


 ガチャ。


 っと。石川が戻ってきた。こいつ……今度はなにしにーー


 !?


 カレンダーを元どおりに戻し始めたー! なんてチキン! なんたるチキンハート! しかも、7月8月10月9月の並びにして、もはや嫌がらせかもわからないぐらいのものになってるー!


「……フフフ」


 石川は、満足気に、走って行った。


















 こんなん、取れ高、ゼロじゃねーか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る