第19話 収録後
いつものように手ごたえのない収録後、楽屋に戻って一息をつく。もはや、ツイッターは常時炎上状態で開けることすらままならない。
トントン。
「新谷さん。そんなことより、梨元プロデューサー呼んでますよ」
「木葉ちゃん!? いつもの『よかったですよ』のくだりは!?」
そこは省かないでくれよ!
「ほら、そんなことよりも早く行ってくださいね」
そう言って敏腕マネージャーはさっさと次の仕事へと去っていく。『そんなことより』に掛かっている言葉の消滅。時短。働き方改革。俺はこのくだらなくも愚かしい世の中に異議を唱えたい。
しかし、なんなんだ。毎回毎回あのオッサンは。
*
トントン。
「失礼しまーす」
部屋に入ると、梨元さんが真剣な表情を浮かべている。これは、決して珍しい光景ではない。むしろ、いつも彼は真面目な表情だ。考えていることが至極不真面目なだけで。
「新谷君。次は、視聴者にあの子たちの楽屋での様子を見てもらおうと思っている」
「……なるほど」
あのポンコツ娘どもの私生活は、激しく不安ではありますが。
「ようやく見つけたんだ……コンセプトを」
「コンセプト……ですか」
「そう……BKA49のコンセプトは『会いに行けるアイドル』。追って、坂道46が結成された。彼女たちのコンセプトは『BKA48の公式ライバル』。では、その妹分である彼女たち凪坂46は? 僕はね、ずっとそれについて考えてきて……やっと見つけたんだ」
アイドル界の神と言われる敏腕プロデューサーが、満を持して彼女たちに伝えるコンセプト。それは、彼の秘めた想いであり今後彼女たちが目指す指針となる。
確かに、情緒不安定なアイツらには、そういう指針は必要なのかもしれない。
でも。
「……と、言うより最初から考えてないんですね」
「当たり前だろう。コンセプトを持って人を集めるのなんか2流しか集まらない。集まった人にコンセプトをつけるのが超一流のやり方というものだよ」
梨元さんは自信満々に答える。
「……なるほど」
この人がそういうと、思わずそう思えてしまうのが不思議だ。
「では、コンセプトを発表するよ」
「は、はい」
ゴクリ。
梨本さんは、どこから取り出したかわからない筆セットの筆に墨汁を突っ込んでツラツラと紙に書き殴る。
「フフフ……こう見えても、書道は3級でね」
「……」
『段』ですらなく、威張るほどのことではない(むしろ小学生レベル)。
「……できた!」
*
『見る分には可愛いが、実際には関わり合いになりたくないアイドル』
*
・・・
めちゃめちゃ奇妙ーーーーーー!?
「なんなんですかこのコンセプトは!?」
というか可愛そうくないですかこんなの!
「……時代」
「意味深な発言しても全然わかりませんよ!」
果てしなく意味が不明。
こんなアイドルたちが売れるはずがない。
「みんなそう言ったよ」
「……え」
「おワン子部活もBAK48も……そんなコンセプトはバカげてるって、凡人どもはみんなそう言っていた」
「……っ」
「しかし、僕は証明してきたよ。僕は間違っていないということを。世界に対し……そして、これからも証明し続ける」
それは、圧倒的なオーラだった。
数々のトップセールスを叩き出し、時代の寵児へとなったこのプロデューサーの戦闘力はフリーザ級であると言っても過言ではない。
「やって……くれるね」
「……はい」
もはや、そう言うしかなかった。
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