第36話 楽屋(2)


「梨元さん、いくらなんでもそれは知ってますよ」


 俺もアイツらを獣扱いをしたことはない。


「あの子たちを解き放て!」


「もののけ姫じゃないです!」


「でいたらぼっちは……」


「もののけ姫じゃないです!」


 絶対あんた今週の金曜ロードーショー見ただろ!


「ふっ……飛べない豚は」


「ただの豚ですよね!?」


 それでは飽き足らずジブリ見返してますね!


「……余談が過ぎたが」


「過ぎまくってますよ」


 と言うより、もはや、余談ではない。


「とにかく、彼女たちにありのままを見せるのは、すごく勇気のいることだ。アンパンマンが顔面半分を分け与えるのとは訳が違う」


「……その難易度がイマイチパッとしませんが」


 俺はアンパンマンだって苦渋の決断だったと思うよ。


「だからこそ、君たち公式お兄ちゃんがいるんだ」


「……それは」


 その通りだと思う。


「今までの収録はなかなか面白かったと思う。『見る分には可愛いけど、実際には関わり合いになりたくないアイドル』の『関わり合いになりたくない』部分がよく出てたと思う」


「それって単純にヤバイ奴ってことですよね!?」


 すなわち、全然ダメだということじゃないんですか!?


「しかし、それだけじゃダメなんだ。もっと彼女たちの可愛い部分を引き出さなきゃいけない。ヤンデレだよ、ヤンデレ」


「つ、ツンデレじゃないんですか……」


 ヤンデレはヤバイだろう世間的には。


「そんな新谷君にコレを渡したかったんだ」


 そう言って梨元プロデューサーは、チケットを俺に手渡す。


「……これは?」


「彼女たちのライブチケット。まあ、今回はお姉さんグループ『坂道46』とのコラボだがね」


 坂道46との……


「梨元さん、あなたは……俺になにを見せたいんですか?」


「君は、彼女たちの『ありのまま』が見たいんだよね?」


「……」


「彼女たちはアイドルだ。彼女たちはステージでこそ輝く。『ありのまま』になれる。誰がなんと言おうと、そこが彼女たちの居場所なんだ」


「……わかりました」


「君はある意味、無謀なことを目指して行かなくてはいけない。ステージでしか『ありのまま』を見せられない不器用な彼女たちに対して、収録でも素顔を引き出して行かなくてはいけない。それは、はっきり言って至難の技だよ」


「まずは、敵の姿を知れ……ってやつですね」


「ふっ……その通りだ」


 梨元さんが一気に敏腕プロデューサーの顔になった。さすがは、時代の寵児として成り上がった男だ。


「わかりました……しっかりと、見させていただきます」


 あなたの作ったアイドルグループを。


 あなたが言う『ありのまま』を。


 現場で直に感じてきます。


「……」


「では、失礼します」


 そう言ってこの部屋を出ようとした時。


「……新谷君」


 梨元プロデューサーが呼び止めた。


「なんですか? まだ、なにか」


「……9800円」


「……」


           ・・・




















 金取るの!?





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