第52話 炎上
チーム対抗戦が無事(?)終わり、いつもの日常。
「なーんか変な言葉」
昔今庵でいつも通り、炎上ツイッターを眺めながらつぶやく。
よく聞かれる表現だが、『いつも』と『日常』が同じような意味に感じて少々気持ち悪い。逆にこの違和感こそがいつもの日常なのかもしれないなどと物思いにふけるぐらいには暇なのである。
R-1も終わって、大きなお笑いショーレースはいまのとことない。
「あっ、新谷さん」
そう声を掛けてきたのは、柿谷芽衣。
「よお。調子はどうだ?」
「はい。おかげさまで、やっと積極的に前に出れてきたかなって思います」
満面の笑顔。
天使の微笑み。
「……柿谷。お前、収録のときはなんだってあんなに豹変するんだ?」
前に出るのはもちろんいいんだけど。
この子の場合は、トランス状態になっている。
「エヘヘ」
「ほめてねーよ」
普段は、ちょっと変で会話も噛み合わないが凄く可愛くていい子だ。しかし、こと収録になったらすごく変を通り越して、すっごく変だ。
「そんなことより新谷さんて昔、古いさんとコンビを組んでたんですよね」
「あ? ああ。昔っていうほど昔でもないけど」
「……差し支えなければ、コンビを解消した理由が聞いてみたいです」
「理由? なんで?」
「だって……収録のときは、あれだけ仲も良さそうで、コンビネーションだって合ってたし。ほらっ、最後のリレーのとき……なんだか二人で笑いあってて。私、あのとき『こんな二人いいな』って思ってたんです」
「……」
解散の理由か。
「そりゃ古いに聞くことだな。俺はコンビ解消された側だし、本当のところはあいつにしかわからん」
「……そうですよね」
「でも……振り返ってみるとズレみたいなものはあったな」
今までは冷静に振り返ることなんてできなかった。でも、今なら……あいつの考えが少しだけわかるような気がする。
「ズレ……ですか」
「正直、仲は悪くなかったよ。それに、仲良しこよしの話じゃないしな。他の芸人たちで仲が悪くてもコンビ続けてる奴らなんて五万といるし」
「……」
「……結成当初はさ。バシッとハマったんだ。それが……いつからかな。俺と古谷の息がズレてるって感じ始めたのは。もちろん、お互いになんとかしようともがいてたよ」
でも、どうしようもなかった。これは、お互いの感性的なもので、修正のしようがなかった。
「……」
「普通はさ、どっちかが譲るんだ。お互いの個性みたいなものを消して相方に譲る。でも、俺は……どっちも嫌だった」
相手に譲ることも相手が譲ることも。それは、妥協だと思った。本当に面白いものは妥協じゃ生まれないと思った。それで、もがいてもがいて……失った。
「……勉強になります」
「なるか、こんな話?」
「なります……私……新谷さんのこと……好きですから」
「……なんだそれは」
一瞬ドキッとしたが、公式お兄ちゃんとしてという意味なのだろう。それでも、慕われてくれたことに対して嬉しさと照れくささが込みあげる。
「なんか……アレだな。変な感じになったしテレビでもつけるか!」
そう言って昔今庵に設置されている32型テレビをつけた。そこには『イマナンデス』の番組に古谷が出ていた。
*
「そういやさ、古谷ちゃんってなんで新谷とコンビ解消したの?」
「理由は一つです……シンプルに口が臭い」
ドッ。
*
・・・
「……」
「……」
「ドンマイ」
「うるせーバカ!」
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