第46話 エロフの本領発揮
「
真っ先に術を発動したのは、先ほどから
彼女の術発動の合図が終わると共に、地面からニョキリと
すぐにそれは、人型の巨人の姿を取った。
身長はおよそ三メートル五十。蔦が紐のように絡み合い、頭は人のような形をしているものの目鼻口は存在しない。あくまで人型である。
続いて、私の術が間に合う。
目を開き、札を新緑の巨人へ向ける。
「八十二式 物装
この術は白虎・朱雀など最高位の五獣式神へ転じさせる際の術式の一つ。
本来は
札から白と金色の光が入り混じり、新緑の巨人へと吸い込まれて行く。
「お、おおお」
リリアナの感嘆の声。
光を吸収した新緑の巨人は、見た目こそ変わっていないが内包する力強さは数倍に跳ね上がっていることがありありと感じ取れた。
巨人の「木」。白面金毛玉藻は「地」「水」「金」の三属性。
「アトミック・レイ!」
そこへゼノビアの手の平から紫色の妖しさを醸し出す光線が放たれる。
対する巨人は両手で受け止めるように手を開く。
――ドゴオオオオオ。
静かな光からは信じられないほどの轟音が鳴り響き、巨人の手の中で光が爆発する。
しかし、巨人は肘から先が焼け切れ消失していたものの不動のまま、その場に立っていた。
「な、なんと! 予想以上の性能じゃな。仮想敵のあの魔術……妾のエタンセルに匹敵するのじゃが……」
驚き目を見開いている場合じゃないぞ、リリアナ。
その間にも、巨人は腕の切り口から蔦が伸び腕が再生している。巨人の身体は全て蔦でできているのだ。
故に一部を切り飛ばしたところで大した痛手にはならない。
「リリアナ、今のうちに早く!」
「う、うむ。あの憎き仮想敵を打ち滅ぼすのじゃ!」
リリアナの声に応じ、巨人はその巨体からは想像できないほどの神速でゼノビアへ肉薄する。
対するゼノビアは、腕を消し飛ばしたはずの巨人の再生力に戸惑っている様子で未だ構えが取れていない。
「きゃ、きゃああああ。ちょ、ちょっとおお」
巨人はゼノビアの懐へあっさりと入り込むと、彼女のくびれた細い腰を両手で掴み抱え上げる。
そのまま手から先が蔦に戻り、術を唱えようと腕を動かすゼノビアの行く手を阻む。
ならば、巨人から逃れようと彼女は足を大きく振り勢いをつけ伸び上がろうとする。しかし、巨人の腰から伸びた蔦が彼女の足も絡みとったのだった。
「その調子じゃ、巨人! 仮想敵を!」
「応」とでも応じるかのように、巨人の動きが激しさを増し完全にゼノビアを蔦で拘束する。結果、彼女は身動きがまるでとれなくなってしまう。
「な、なんなのおお。これえ」
リリアナ……。ちょっと私もこの攻撃には苦言を呈したいところなのだが……。
仮想敵ってその部分だけに言っていたのか?
抵抗できないゼノビアに対し、巨人の蔦は乳の上下をしかと縛り付け、柔らかな乳房を蔦の先で弄ぶように触れる。
「リリアナ……」
「ま、まさか。こんなことになるとは……」
「いや、夜魔と分かった時点で『オハナシ』できるように拘束しようという思いは同じだ。しかし……」
「辱めるつもりなどなかったのじゃああ」
「
「う、うう……」
リリアナは反省しているようだが、全く態度で示してはいないじゃないか。
だから、胸をいじらせるのはやめろと言っているのに。
よく形を変える彼女の乳房を見るわけにもいかず、私はリリアナへ呆れたような目線を送った。
「き、気持ち悪い……で、でも……あっ……」
ゼノビアから嬌声があがる。
「リリアナ!」
「止めようにも止まらんのじゃあ! あ、あのけしからんモノが強調されるとよりこう妾の心を刺激するというか……」
リリアナをいさめようと強い口調で彼女の名を呼ぶが、彼女にもどうしようもない様子。
仕方あるまい。
「ゼノビア。貴君の目的は何なのだ?」
「っつ……こ、こんな時に聞くのお。うっ……こ、これえ。癖になりそう……」
「十郎のことでここに来たのではないのか? 貴君は私たちに仇を成す者なのか、それとも話合いでなんとかなるのか?」
「じゅ、十郎くん……の手。じゃないよお。これはどう妄想しても人の手にはならないのお」
「……もう放っておいて、帰るか……」
「あっ……そ、そんなあ」
その時、波が一層高く打ちあがる。
――ゾクリ……。こ、これは、魔将並みの濃密な魔の気配。
ゼノビアからももちろん真祖・魔将並みの魔を感じるのだが、彼女は先の真祖のような悪意や邪気の塊のような粘つく感じはない。
今、出現した魔からは、私の身体全体が危険を伝えている。
真冬の凍えるような寒さと比して、尚極寒。異常なまでに感情を押し殺したこれまで感じたことのない心胆から寒からしめる気配。
魔とは恨みなどの激しい感情と結びつき、妖魔と成る。
だから、魔には通常何等かの淀んだ感情が含有するものなのだ。
しかし、この気配は無色……それも限りなく人を不安にさせるような……。
「何者だ!」
私がそう言うより早く、波の間から何かが飛ぶ。
それはゼノビアを拘束する蔦を切り離し、地に落ちた。
折り紙か。
クナイの形に折られた折り紙が、音も立てずに砂に突き刺さっている。
同業者……。ふとそのようなことが頭をよぎった。
蔦の拘束が外れたゼノビアは、四つん這いの体勢でそそくさと巨人から距離を取る。
その先には、三十代半ばほどに見える男が軽薄な表情で腕を組んでいた。
彼は日ノ本で見る公家のような衣装に身を包み、肩口までの真っ直ぐな黒髪を伸ばしている。彼は整った顔立ちをしているが、どこか人を小ばかにしたような印象を受けた。
あの顔……どこかで見たような。
「全く、何をやっているのですか? 貴女は」
男はため息をつきながらも、無表情のまま地を這うゼノビアへ顔を向ける。
「だってええ。十郎くんがあ」
「十郎君に頼まれたのですか? まさかそんなわけはありませんよね?」
「ハルトって人のことばっかり話すからあ」
「……こんなところで油を売っておらずに十郎君の手伝いでもしたらどうですか?」
呑気な会話を交わしている二人ではあったが、聞いているこちらは気が気でない。
魔将クラスを二人同時など悪夢以外の何物でもないぞ……。
そう考えながらも、小声で囁くようにスタータスオープンの術を唱えた。
『名称:ミツヒデ
種族:九尾
(階位:魔将)
レベル:九十九
HP:七百三十
MP:五百十
スキル:陰陽術
転移術
地 十
水 十
火 十
風 十
(金 十)
光(陽)七
闇(陰)十』
「行きますよ。ゼノビア君」
「ふぁあい」
私の思いとは裏腹に二人はあっさりと踵を返す。
ほっと胸を撫でおろした時、男――ミツヒデは首だけを後ろに向けた。
「やるのでしたら、背後からでも構いませんよ?」
氷のような目線に背筋が総毛だつ。
「いや、立ち去るというのなら追わないさ」
ミツヒデは顔を前に戻し、手を振ると二人の姿は忽然と消失した。
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