第16話 属性
リュートの父親を送り届け、再び大森林に戻る。
そうそう、リリアナとのことですっかり蚊帳の外になっていたが、和紙でできた鳩はリュートの父親が持っていた。
やはり、鳩は距離が遠すぎて到達できなかったということだろう。
リリアナの家がどの辺りにあるか分からないが、鳩の飛行距離だと大森林を端から端まで到達することは不可能だ。ましてや、ティコの村から鳩を飛ばしているのだから尚更距離が増える。
というわけで、彼女の家の場所次第では、鳩は到達できずトンボ帰りすることになる。そこから推測するに、彼女の家は私がいた場所から遠いところにあるはずだ。
そんなこんなで、再び大森林にいるわけなのだが……。
大森林に入り腰を降ろす前に、リリアナが姿を現した。
「待っておったぞ」
「来てくれたんだな。感謝する」
リリアナは右手を前に差し出しこちらへ顔を向けた。
一瞬何のことなのかと思い惚けてしまったが、すぐに挨拶の握手のことを思い出す。
彼女の手を握り上下に軽く振ろうとしたが、何故か彼女は私の手を自分の方に引っぱるではないか。
「一人で歩けるが?」
「逢引とか期待したのじゃろうが、そうではない」
「期待などまるでしていないのだが……」
「相変わらず、憎たらしい奴じゃの、お主……だああ、手を離すでない」
リリアナはせっかく離れようとしていた手を強く握って来る。
一体何なのだ。
彼女は右手を掴むだけでなく、もう一方の手で私の左手まで掴んでしまった。
左手は触れられたくないのだが……。
怪訝な顔を崩さぬ私であったが、両手を握られたことで彼女と向い合せになる。
「なんじゃ、こんな美女と向い合せになっておるというに、その顔は」
「何をするつもりか分からぬが、早くしてくれないか?」
「全く……お主、男子ならほれ」
リリアナはつま先立ちになり、顔を上に向けた。
それに対し、私はふんと顔を右にそむける。
「冗談はいい」
「乗りの悪い奴じゃのう。共に連れて行くには、対象の体へ触れなければならぬのじゃ。行くぞ」
リリアナは一旦私から手を離し、人差し指を口につけ、反対側の腕の手首をクルリと回す。
すると、緑色の鱗粉が彼女から舞い上がってくる。
これは転移の
二度目ではあるが、この世に転移術があったことに驚きを禁じ得ない。
鱗粉に目を取られていたら、リリアナが再び私の両手を握りしめた。
その瞬間、視界が切り替わる。
◇◇◇
「こ、ここは……」
目の前には、ひときわ大きな大木が一本だけそそり立っており、周囲は少しばかり開けている。
その外側は先ほどいたところと同じような大木がまた広がっていた。
件の巨木の幹には螺旋状の階段のように見える出っ張りがあって、あれを伝っていけば容易に木の上まで登れそうだ。
「妾の屋敷じゃ」
手を握ったままリリアナは自慢気に顎をあげる。
「ここは……特別な場所のようだな」
リリアナから手を離し、巨木を見上げた。
ほう。枝の上が家になっているのか。窓と丸太を組み積み上げた壁が確認できる。
「どうじゃ、ビックリしたかの?」
リリアナが私の腰辺りの服を掴み、引っ張る。
彼女の方を向けということか? せっかく巨木を眺めていたというのに。
「ああ、驚いたさ」
リリアナの方へ向き直り、素直に自分の感想を述べた。
「そうじゃろう、そうじゃろう」
満足気に腕を組み、長い耳を上下に揺らすリリアナ。
驚いたのは、巨木だけではない。他にもう一つ……。
「……ここは空気が違うように感じる」
「ほう……」
ワザとリリアナに聞こえるよう呟くと、彼女は目を細め感嘆の声をあげた。
しかし、気になりはじめると、調べずにはいられないのが私だ。
「リリアナ、術を使ってもいいか?」
「構わんぞ」
リリアナの了承を得たので、袖を振り札を指先で挟む。
「八式霊装 心眼」
心眼は霊力の色や流れを見ることができる。
改めて周囲を見渡してみると……。
「結界か」
「その通りじゃ。ここへ近寄ろうとする者は、すり抜けて向こう側に抜けるのじゃ」
「なるほどな」
「お主の出した奇妙な鳩もこの辺りをウロウロしておったぞ」
「そう言うことか……どうりで鳩は到着しないわけだ」
鳩は距離が遠くてトンボ帰りしたわけじゃなかったのか。
この場所へ入ることができず、ウロウロしている間に鳩は飛行限界距離を迎えたのだ。
最初の鳩が戻ってこなかったのは、リュートの父親が結界の中にいたからだろう。
じゃあ、二度目は?
問いかける前にリリアナが答えを返してきた。
「二度目はお主がやったと分かったからの。迎え入れたところ、リュートの父親の元へ飛んでいきおったわ」
結界、転移術……これ以外にもリリアナは高度な術を使いこなすのだろうか。
もしかしたら、本当に彼女は大賢者かもしれない。といっても、今更彼女へ向ける態度を変える気はないが。
得意気に鼻を鳴らすリリアナを見ていたら、私の判断に間違いはないと改めて思う。
それにしても、この結界。
「何じゃ? 狐につままれたような顔をしおって」
私の態度に対し、リリアナが首を傾けた。
「結界なら、私でも術を組み上げることはできる。しかし、この結界に使われている属性……見たことが無い色だ」
「お主の術……魔術とは異なるのじゃろ? 魔術の解析とは見え方が違うのお。一体、色とは何のことなのだ?」
「色とは……そうだな。属性と言えばいいのか」
「ふむ。そう言うことか。この結界はの、木属性でできておる」
俄然興味が出て来た。ここは是が非でも彼女のステータスを見たい。
「ほう……リリアナ。一つ頼みがある」
「……な、なんじゃ……」
リリアナの両肩へそっと手を置き、真っ直ぐに彼女を見つめる。
対する彼女は、頬を少し赤らめ戸惑ったように顔はそのままに目だけを逸らした。
「ステータスを見せてもらえないか?」
「……お主、ワザと妾を見つめたじゃろ?」
「気のせいだ。見てもいいか?」
「まあ、いいじゃろう。その代わり、お主のステータスも見させてもらうからの」
リリアナが快く了承してくれたので、さっそくステータスオープンに加え、能力値調査も唱える。
『名前:リリアナ
種族:ハイエルフ(森妖精)
レベル 八十九
HP: 二百
MP: 八百六十
スキル:暗視、不老、(心眼)、(MP超回復:大森林)
地:九
水:九
火:八
風:九
木:十』
なかなかの強さだ。
確かに、「木」という属性が表示されている。
「リリアナ、木の属性はハイエルフのみが使いこなす属性なのか?」
「そうじゃ。しかし、ハルト、お主、思った以上にレベルが低いの」
私のステータスを見たリリアナは、意外そうに眉をひそめた。
「……レベル表示が全てではないとだけ言っておこうか」
私のレベルはステータスオープンで表示するとかなり低く出てくる。
おそらくだが、スタータスオープンでは陰陽術の属性のくくりをうまく表示できていないと思うのだ。
私のステータスは、五属性しか表示されていない。しかし、私が使いこなすのは陰陽五行の七。
「ハルト、いつまでもここではなんじゃし、家に行こうかの?」
眉をひそめていたリリアナだったが、すぐに表情が元に戻り私の手を引く。
しまった。次に手を握ろうとしてきたら、彼女の手を避けてやろうと思っていたのだが、ステータスのことに思考が取られていておろそかになっていた。
「分かった。お邪魔させていただく」
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