第29話 作戦会議

「はい。どうぞご覧になってください」

「ええ。ご自由にご覧ください」


 ジークフリードとシャルロットが了承してくれたので、さっそくステータスを見させてもらうことにした。


「ステータスオープン……そして、能力値調査」


 先にジークフリードから見てみよう。


『名前:ジークフリード

 種族:リザードマン(蜥蜴人)

 レベル 八十七

 HP: 六百

 MP: 百

 スキル:大剣、剣、斧、頑健、鱗、聖剣に選ばれし者

 地:四

 水:二

 火:四

 風:三』

 

 おお。これだけのレベルとHPを持つのなら、真祖の爪からパーティを守り切ることができそうだ。

 続いて、シャルロット。

 

『名前:シャルロット

 種族:人間

 レベル 八十五

 HP: 二百

 MP: 五百六十

 スキル:カリスマ、神性、ユニコーン使役

 地:七

 水:九

 火:七

 風:七

 聖:十』

  

 聖属性は初めてみる。どのような属性なのか未知数だが、アンデッドに滅法強いと聞く。

 シャルロット、リリアナ、私の役割分担をどうすべきか……迷いどころだな。

 

「ハルト。いつもステータスオープンの後につけておる『能力値解析』とは何なのじゃ?」

「我が国でのステータスオープンの術と思ってくれれば。単純な術だから、リリアナなら見様見真似で使えるだろう?」


 私がステータスオープンをすぐに使えるようになったように、リリアナも同じように使えるに違いない。

 彼女の目は霊力の流れを読み取ることができるからな。

 

「ふむ……こうかの……ステータスオープン、そして能力値解析」


 じーっと私の顔を見やり、目を見開くリリアナ。


「ステータスオープンでは閲覧できない数値が見えているはずだ」

「う、うむ。そうじゃが……お主のレベル……」

「リリアナ。レベルが強さの全てを決めるわけではない」

「ま、まあ……そうじゃが……」

「リリアナ。私のステータスのことはまた後日、意見を交わそう。今はその時ではない」

「うむ。そうじゃな」


 リリアナは能力値解析を加えた私のステータスを閲覧した。となれば、彼女が見えている私のステータスにおけるレベル表示は五十四ではない。

 一方で私のステータスを普通に閲覧したジークフリードとシャルロットは、私がレベル五十四ではあるがリリアナの言葉から、表示されている数字より強いと考えてくれたようだが……まだ半信半疑の模様だ。

 

「ジークフリード、シャルロット。ハルトは妾の前でスケルタル・ドレイクを始末したのじゃよ」


 リリアナは二人へ私のスケルタル・ドレイク討伐のことをかいつまんで語って聞かせた。


「な、なんと……たった一人でですか。それではこのレベルは本当に当てにならないのですね」

 

 ジークフリードは目を輝かせて感激したように呟く。

 この男……どうも戦闘狂の匂いがする……十郎のように。武人ってやつは誰が強いやら強い者と戦いたいといったことに執着する者しかいないのか。


「途中、妖魔……魔族クラスのアンデッドに遭遇しましたら、私が討伐しましょう。それで信じてもらえるかと」


 捕捉するように私が口を添えると、ジークフリードは「是非!」と無駄に大きい声で即答する。

 

「ハルトさん、そうしますとMPを消費してしまいませんか?」

「多少は……使いますが、その後が真祖との戦いのみでしたらMPに余裕がありますのでご心配なく」


 シャルロットが最もな質問を投げかけてきたが、問題ないと回答する。


「皆の者。全員の力を把握しておるのは妾だけだと思うのじゃが。もっとも……シャルロットは先代の聖女と同様と考えてよければじゃが」


 ふむ。リリアナが音頭を取ってくれるようだな。

 彼女は知恵者……のはずだし、私とジークフリードの戦いを直接見ている。彼女が率先して話を進めてくれるのが一番よさそうだ。

 彼女の提案に何か意見があれば、こちらから対案を出せばいい。


「聖女の役目は同じです。先代様と同様に考えていただけましたら」


 シャルロットがリリアナへ応じる。


「こういうのはどうじゃ。ジークフリードは前衛にて真祖の攻撃を引き受ける。シャルロットはジークフリードへ防御魔術を構築。更には彼へ補助バフ魔術を頼む」

「非常に手堅いですな。私はそれで構いません」


 ジークフリードよ。リリアナの意見を全部聞いてから返答したらいいのに。

 まあ、彼の場合、全て聞こうが聞くまいが指示通り動いてくれそうだ。単純であること……いや単純であろうとすることは実力者ほどなかなかできなくなってくる。

 これまでの態度から、彼は戦闘大好きな嫌いがあるものの、自分がこの場で与えられた役割を把握し遂行する力に長けているのだなと私は思う。

 

「そして、ハルトが力を溜め、術を構築し真祖へ痛撃を。妾はハルトの魔力を高めるように補助バフ魔術をかける。これでどうじゃ」

「わたくしは賛成ですわ」

「リリアナ様が託すのです。私もハルト殿の一撃を信じます」


 あっさりと賛成するのだな。この作戦は私の攻撃力に全てがかかっているというのに……。それだけ彼らのリリアナに対する信頼が高いってことか。

 途中で力を見せることができれば、いいのだが……。

 

 しかし、リリアナ。その作戦には穴があるのだ。

 

「リリアナ。それじゃあ手落ちだよ」

「ぬ。ジークグリードの攻撃にかける方がよいかの?」

「いや、そうではない。待機役がいない」

「ぼーっと待機しておれる相手ではなかろうに……」

「そうじゃない。リリアナ。真祖の力とは魔の者を生み出す力にある。不測の事態が起こった際に、露払いをせねばならぬ」


 何のことだと首を捻るリリアナ、更には横で聞いているジークフリードとシャルロットにも向けて私の想定を述べる。

 真祖は術と自らの爪に加え、しもべを生み出す能力も持つ。ジークフリードは爪と術に対処するのに精一杯だろう。

 となれば、僕をけしかけられた場合、ジークフリードをくぐり抜けて後列の私を含めた三人へ襲い掛かる。

 

「騎士団で相手をさせればどうでしょうか?」

「いえ、ジークフリード殿。既に街一つが真祖の手に落ちているのです。彼らは既に生まれてしまったモンスターから私たちを守るのに集中してもらいたいです」

「確かにそうですな。では、どうされるのですか?」

「リリアナに待機してもらい、しもべが生み出されたら即滅してもらおうと思う」

「ふむ。遊撃役かの。任せておくがいい」


 リリアナは腕を組み胸をそらす。


「ハルト殿。リリアナ様のサポート無しで真祖を滅しうる火力を発揮できるのですか?」

「問題ありません。そこはお任せください」


 真祖の攻撃をジークフリードが全て塞ぎ切ってくれるのなら、必ずや真祖を滅して見せよう。

 彼らが私を信じてくれるように私も彼らを信じる。

 自らの防衛は考えない。

 

 ならば、問題ない。

 陰陽術とは魔を滅ぼすためだけに生み出され、古来から脈々とその技術を磨き上げてきたのだ。

 千年の研磨が今私の中に備えられている。陰陽師の矜持。見せてやる。

 

 三人の目を次々に見やり、拳をギュッと握りしめた。

 

「ハルト。気負うなよ。うまくいかずとも、妾もジークフリードもシャルロットもいる。頼るがよい」

「ああ。分かっているさ。もしもの時は、お願いします。ジークフリード殿、シャルロット、リリアナ」


 三人は力強く頷きを返してくれる。

 

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