第一話 11-14
「ふう、まったく……」
「ふふ、かわいい妹さんだね」
「わたし、妹はいないから、ちょっとうらやましいかも」
「そうかぁ? お姉さんの方がよくない?」
「ん~、もちろん
「そういうもんかなぁ」
どれもやったことがあるけど、別にそこまでいいものじゃなかった。俺なんかはむしろ優しいお姉さんに骨の髄まで甘やかされたい。オギャりたい。
まあ妹を持つ者には持つ者の、姉を持つ者には持つ者の主張があるんだろう。
「それより、さっそくイラストを始めよう。あんまり時間はないんだ」
「はーい」
ささっと髪の毛をツインテールにして、
おや、さらに今回は、眼鏡もかけていた。
「あれ、
「あ、うん。ほら、中学の時にガリ勉しちゃったから、ちょっとね。いつもはコンタクトだけど、今回は長丁場だから眼鏡にすることにしたんだ」
「そっか」
しかし眼鏡にツインテールもほんとによく似合ってるなあ。活発な感じのツインテールと大人しめな感じの眼鏡という二律背反する要素がプリンに
「それでイラストだけど……これまでと同じことをやってても、間に合わないと思うんだ」
「う~ん、そうだよね。どうすればいいのかな?」
「それでなんだけど……」
これについては少し考えてみた。
技術面ではどうやったってもう限界がある。だったら少し攻める方向性を変えてみるしかない。
「やっぱり気持ちをこめて描くことじゃないか」
「気持ち?」
「うん、イラストでも何でも、メンタルが及ぼす影響は大きいと思うんだ。だから」
「なるほどなるほど、気持ちかー。うん、それには賛成。ピアノを弾く時とかでも、同じ曲を弾いても、やっぱり気持ちが入ってる演奏は音がぜんぜん違うもんね。分かった、やってみるよ」
そう大きくうなずいて、
だけどすぐにその手を止めてしまう。
「……うーん、ここのシーン、マホちゃんはどういう気持ちなんだろ」
「どうかした?」
「あ、うん。描こうとしたシーンなんだけどちょっと分からないことがあって……。──あ、そうだ!」
そこで
「?」
「あのさあのさ、せんせー。このシーンを再現してみたいんだけど、いいかな?」
「再現?」
「うん、そう。やっぱり気持ちをこめて描くにはその時にキャラクターがどういう気持ちでいるかを理解する必要があって、キャラクターの気持ちを理解するのには、自分たちでそのシーンを再現してみるのが一番だと思うんだよ」
「なるほど……」
それは一理あるかもしれない。
「よし、それやってみよう。今は何を描いてたんだ?」
「えっとね、これ」
「ん、どれどれ……なるほど、マホちゃんが敵である醜悪な魔物クリムゾンに追い詰められて、組み敷かれるシーンか。……って、組み敷かれる!?」
そんなシーンを描いてたの!?
ちらっとスケッチブックを見たけど
「え、その、本当にこのシーンを……」
「そだよ。だって分かんないんだもん」
「……」
「それじゃあ……えいっ」
「!」
や、それはまあ俺の部屋の中で組み敷かれることができる場所はそこしかないけど……ないけどさ!
「さ、準備はいいよ。せんせ、クリムゾンになりきって襲ってきて?」
そして俺はナチュラルに醜悪な魔物役なんですね。確かにマホちゃん役をやれと言われても困るけどさ。
とりあえず、魔物になりきって
「グロッグロッグロッ……とうとう追い詰めたぞ(……ひどい笑い方だな、おい)」
「や、やめて……こないで……」
「グロッグロッグロッ……お前の命運もここまでだ」
「そ、そんなこと……っ……」
ベッドの上でマホちゃんに
短めのスカートの裾が少しだけめくれあがって、さらには清らかな水みたいな髪の毛が毛布の上を流れて、ふわりといい匂いが辺りに漂った。僅かに頬の紅潮した
「グロッグロッグロッ……今からお前に屈辱を与えてくれる」
「……い、いやぁ……」
え、ええと、ここで決め
ベッドの上から
「──グロッグロッグロッ……支配者がだれか、お前のその
ガチャリ。
と、そこで部屋のドアが唐突に開かれた。
「お茶もってきたよ、おにーちゃ──」
そこにはお茶とお菓子をお盆に載せた
「す、
「お、おにーちゃんが……おにーちゃんがふしょーじを……!」
「ち、違うんだ、これにはわけがあって……!」
「わ、わけもわかめもないよ! みるからにふしょーじだよ……!」
「い、いや、それは……」
「だ、だいじょーぶだよ……おにーちゃんが遠くにいっちゃっても、わたしはおにーちゃんの味方だから……」
「遠い目をしないで!? だ、だからそうじゃない……ほ、ほら、
「……うっうっ、ぐすっ……負けません……どんなに肉体は
「の、
結局、妹に事情を説明して通報を踏みとどまらせるのに一時間を要した。
初っぱなから、不安なことこの上ないスタートなのだった。
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