第二話 8-8
おかげで何とか入場時間締め切りに間に合うことができた。
「あ、
「せ、せんせー……!」
エレベーターから出てきた俺を見付けて
「だ、だいじょうぶ……? 何だか顔色がよく
「だ、大丈夫だ。それよりこれ。ちょっと……手汗で湿ってるかもしれないけど……」
「う、うん……っ」
充電器によりバッテリーが補充され、スマホが再び立ち上がった。
「さ、
「……」
「?
返事がない。
「せんせー……いっしょに、回してくれない、かな……?」
「え?」
「最後のガチャ……わたし、せんせーといっしょに回したい。そうすれば……今度こそマホちゃんが出てくるような気がする」
「
うなずき返して、
正直俺のガチャ運はまるでよくない。
『MGO』はいちおうインストールしてあるけど、試しに回してみたガチャは
だけどどうしてだろう。
何だか妙な確信があった。
胸の奥から湧き上がってくる高揚感。二人でなら……今度こそ『光翼をまとうマホちゃん』が出る気がした。
「それじゃあ、回そう」
「うん、いっせーのせ、でね?」
「分かった。いっせいの──」
「せ──!」
声を合わせて、召喚ボタンを同時にタップする。
光り輝く魔法陣の中から出てきたのは──
帰り道の電車の中は、人で混み合っていた。
何とか席を確保することはできたものの、ギュウギュウ詰めで
「……ううん……せんせ……」
疲れたのか、隣の
小さく上下する肩と安らかな寝息。
だけどその手に、ずっとスマホを握りしめていた。
まるで……宝物を大切に扱うかのように。
サンシャイン展望台で最後に二人で回したガチャ。
そこで出てきたもの。
それは待ちに待った『光翼をまとうマホちゃん』……では、なかった。
「せ、せんせー、これ……」
「え、これって……」
そこにあったのは……六対の光輝く翼を大きくはばたかせるマホちゃんの姿だった。
『光翼をはばたかせるマホちゃん』。
輝いている☆の数は六つ。
『光翼をまとうマホちゃん』がさらに進化して強力になった、幻とも言われている激レアなキャラだった。
「こ、これ……すごいんだよね?」
「すごいも何も……
「あの
口元に手を当てて目を
「すごい……すごいよ、せんせー!」
ガバッ……!
「うおふっ」
次の瞬間、思いっきり抱きついてきた。
お、おおう……何だかワケが分からないくらい柔らかい感触が全身に感じられて、さらにはふんわりと漂ういい匂いと頬に触れるさらさらの髪のハーモニーがファビュラスで……
「ありがとう……せんせー……」
「や、別に俺は何も……」
だけど
「ううん……そんなことない。せんせーは一生懸命になって、こんなに汗だくになって、走り回ってくれた。こんなわたしなんかのために……それがすっごく……うれしかった……」
「
「……ほんとに……ありがとう……」
少しだけ目を潤ませて、ぎゅっと手を握りながらそう言ってくる。
その感謝の言葉にどう返していいか分からないでいると、
「せんせーって……まるで王子さまみたい。いつでもわたしの困った時に現れて、助けてくれる」
「え……」
「うん、せんせーは王子さまだよ、ぜったい。でもせんせーなのに王子さまって、なんか変なの。あはは」
「自分で言って笑うなって……」
「あはは……ごめんね。でも──」
「?」
そこで
そしてぴょこんと一歩だけ前に出ると、手を後ろに回したまま振り返って、こう言ったのだった。
「せんせ……ずっとわたしの
6
そしてこれはちょっとしたその後の
翌日、学校では
「おお……これはまさか、ネットで
「実在したのですか……!」
「さすがは
『光翼をはばたかせるマホちゃん』を見せることができ、無事にフレンド登録もできたみたいだった。
ともかくこれで一件落着だ。
『光翼をはばたかせるマホちゃん』を三Kたちに見せながら
「おはヨークシャーテリアー!」
いつでもハイテンションな十年来の
「あ、いたいた
「え?」
あれ、何かものすごくイヤな予感が。
「ほらこれ、約束してたメイド服とスク水に偏執的にまでこだわった同人誌。あれから色んなお店で探したんだけど、大変だったよー。マニアックすぎてなかなか見付からなくてー」
「あ、ちょ──」
そ、そんな大声で朝から何を言い出すんだ!?
「えー、だって昨日、池袋でメイド服とスク水をまるで宝物でも扱うみたいに大切そうに手に取って抱き締めてたよねー? 今にもむしゃぶりつきそうな勢いだった。うんうん、あれには並々ならぬ執着を感じられたよー」
「おま、それは……」
本当にそう見えたんなら眼科に行くことを勧めるよ!?
だけど周りではクラスメイトたちが「え、メイド服とスク水をねっとりじっとりと味わってたの?」「三度の飯より大好物だって……」「それはちょっと引くわー」とひそひそ話し始める。
いやそんな主食が(文字通りの意味で)メイド服とスク水の変態を見るみたいなドン引きな視線はやめてくれませんかね……?
さらには
「そ、そうだったんですか、
「え、いや違う……」
「わ、私、ぜんぜん知らなくて……わ、分かりました……
「し、しなくていいから!」
と言いかけてそこではたと思う。
あ……でもメイド服姿の
「ふっふっふー、やっぱり
「ち、違うって!」
慌てて否定するも、その声は伝わることなく。
俺の叫びは教室に
・
本物のメイド服を借りることができるらしい。
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