第三話 1-11
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放課後の学校は、動物園のように
廊下では男子生徒たちが猿のようにホウキと雑巾で野球をしていたり、教室の中では女子生徒が
そんな中、俺は一人で音楽室へと向かっていた。
中庭での掃除を終えて教室に帰ってきたら、机の上にあるものが置かれていたのだ。
『ご招待状』
封筒に入ったその招待状には何やらイラストのようなものが描かれている。口から
「……」
……な、何これ?
戦慄を覚えながら恐る恐る手に取ると、裏には差出人の名前が達筆で書かれていた。
〝
差出人欄には、そう書かれていた。
「……あー……」
それを見て、心の底から納得しました。
とはいえ何となく一人で開封するのに恐怖を覚える代物であったため、書いた本人を捜すことにした。
教室に残っていたクラスメイトに
なので俺も
音楽室に近づくと、ピアノの音色が耳に入ってきた。
流れるような、空からそっと降り注ぐような、優しい旋律。
その音を邪魔しないように、そっと音楽室のドアを開ける。
すると……
「お……」
そこにはたくさんの女子生徒たちに囲まれて……ピアノを弾く
思えば
初めて見るその姿に──炎を前にした
鍵盤の上をまるで魔法のように走る指。リズムに合わせて揺れる髪。楽しげな
全てが調和して、まるでドラマや映画のワンシーンを見ているかのような錯覚に襲われる。
あの白魚のように繊細なものと同じ手で、すわ冥土への招待状かと思われるものが書かれたとはとても思えない。
しばし入り口付近で心が洗われるような音色を
やがて最後に
同時に周りにいた女子生徒たちが「きゃぁああああああああー〓」と黄色い声(絶叫)を上げる。
「素晴らしい演奏でした、感動です……!」
「ラヴェル作曲『水の精』ですよね! 本当に目の前にオンディーヌがいるみたいでした……!」
「もう生涯耳を洗いません……!」
「これなら次期『
次々とそんな賛辞の言葉が贈られる。
「ありがとうございます」
それを受けてにっこりと
「…………」
ああ、うん、何となくここ最近の一連の出来事で忘れかけていたけれど、やっぱり
成績優秀で、
本当だったら、自分なんかの手の届く存在では到底ない。月とスッポンどころかザ・マンとティーパックマンもいいところだ。
しかもそれを、元々のスペックに甘んじることなく、不断の努力によって
それは本当に……すごいことだ。
何だか目の前にいるのに
「──あ、
「え」
「わ、
本当に
途端に周りにいた女子生徒たちの視線がこっちに集中した。
それも友好的なものじゃなくて、完全にセクハラ犯とか痴漢とかの女性の敵に向けられる視線だ。中には「お姉様、どいて。そいつ、殺せない……!」なんて口走りながら瞳孔の開いた目で
「あ、みなさん、すみません。これから
「ええ、そんな!」
「もっと
「もう一曲だけだめですか……?」
「ごめんなさい。また今度来てくださいね」
「すみません、お待たせいたしました」
「え、あー、いや……」
ちなみに、女子生徒たちが立ち去った後でも
何かの緊急時は例外だけど、
穏やかで、丁寧で、上品で、まるで静かに咲く
これはお姉さんである
「それで
「あ、うん、これなんだけど……」
ポケットに入れておいた地獄の黙示録──もとい招待状を取り出す。
「あ、見ていただけましたか?」
女神のような
「あ、いや、中身はまだ見てないんだ」
「そうなんですか」
「うん。えっと、何なの、これ?」
「はい。招待状です」
それは分かってます。いえ、見た目からはあまり分からないのだけれど。
「あの……実は、お礼がしたくて」
「お礼?」
「はい。イラストの時といい、ガチャの時といい……
「ホームパーティー……?」
何そのセレブな響き。
「あ、今度の日曜日に……私のお
要するに、近所の人たちが休日に集まってやる
ああ、うん、それだったら少し分かる。
「とても楽しいパーティーなんです。それに」
「?」
「それに……おかーさんが、
「お、おかーさん?」
「はい」
そんなセレブの極みみたいな人が、俺に何の用なんでしょうか。
はっ、まさか娘に付く悪い虫(〓俺です)を未然のうちに駆除してしまおうとか……
「そんなに堅苦しいものではないので、気楽な心地で来てくださいね。楽しみにしていますから♪」
花が咲いたように無邪気に
そう言われてもとてもそんな
うう、何着ていこう……
こうして、
・
招待状が地獄の黙示録。
・
ピアノがプロ並みにうまい。
・
ホームパーティーを日常的に開催しているらしい。
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