エピローグ 2-2


「わ、わ~、ピアニッシモちゃんのサイン色紙だ! どうしたの、これ!」


 苦難の末に(?)手に入れたピアニッシモちゃん色紙を見せると、は真夏の向日葵ひまわりみたいに顔を輝かせた。


「うん、すぐそこのアニメショップで配布してたんだ。、欲しいかと思って……」


「うん、ほしかった! てゆうかほしい! すっごくほしい! ありがとう、せんせー!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて宝物を手にしたみたいに喜んでくれる。


 その際にひらひらと揺れるスカートの裾が危なっかしかったのはともかくとして……そこまで喜んでくれれば苦労して入手したがあったなと思う。


「でも何か不思議な人たちに会ったんだよな……」


「不思議な人たち?」


「んー、ちょっと天然な感じの女の人と顔の割には親切なヤクザ(?)で……ま、それはいいや。それより〝夏コミ〟のカタログを買いに行かないと」


「そだね。うん、いこっ!」


 ぎゅっ。


 そう言って、は俺の腕に自分の腕をからませてくる。


「あ、さん……!?」


「へへ~、ピアニッシモちゃんの~」


 ピ、ピアニッシモちゃんというよりはだっこちゃんのような気がするんですが……


 左腕に柔らかい何かを感じながらそんなことを思っていると……ふと背後から何かの気配を感じた。


「……ん?」


「? どうしたの、せんせー?」


「いや何か視線を感じたような気がしたんだけど……気のせいかな」


 神経過敏になってるんですかね……




 *




「む、むう……こんな昼間から腕を組んで、不純異性交遊じゃないのか……」


「わあ、は素敵な相手を見付けたんですね。うふふ、とっても楽しそう」


「むう……それはそうなのかもしれんが」


「あの子、どこか若い頃のあなたに似てます。どこかぶっきらぼうなところとか、でも困っている人を見過ごせないやさしいところとか」


「……そ、そうか?」


「はい♪ だからきっと、も好きになったんだと思います。やっぱり母娘おやこですから、好きになる相手は似るんですね」


「ゴ、ゴホッ……!」


「ふふふ」


「……ま、まあ、何であれよかった。いずれにせよあのピアニッシモちゃんはへのお土産にしようと思っていたものだ。それがだれの手から渡るかが変わっただけだ」


「そうですね、ふふ」


「あの男がにふさわしいかは……いずれまた機を見て確かめるとしよう。──行こうか、はる


「ええ。そうですね──ゆうさん♪」




 *




「そういえばね、お父さんとお母さんが帰ってくるんだって~」


「え?」


 と、俺の左腕にぶら下がったままが言った。


「ずっと海外に行ってたんだけど、一時帰国するって。昨日突然連絡がきたんだよね~」


「そうなんだ……」


 お父さんとお母さんって、さんじゃない、おかーさんじゃない方のお母さんか……


 きっとの両親だから、落ち着いていて立派な人たちなんだろう。優しげで細面で紳士なお父さんと、似で美人だけど上品でしっかりとした大人っぽいお母さんで……


「へへ、せんせーにも会ってもらわなきゃだね。お母さんたち、絶対会いたがるから」


「だ、大丈夫かな……」


「だいじょうぶだよ。おかーさんもせんせーのことは気に入ってるし、それに──」


「?」


 そこでは一度言葉を切ると、


 俺の顔を見上げて、少しだけ恥ずかしそうに、でもうれしそうにこう言ったのだった。




「──それにせんせーは……




「あ……」


「え、えへへ~、〝秘密〟だけどね~♪」


 その言葉に、俺はもう黙って白旗を上げるしかなかった。




 ・ざかの秘密㊻(秘密レベルSSS)


 俺のことが、その、だ、大好き……らしい。




 end  

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乃木坂明日夏の秘密 五十嵐雄策/電撃文庫・電撃の新文芸 @dengekibunko

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