第一話 13-14
7
そんなこんなで、合宿の時間は過ぎていった。
食事と睡眠、
だけどあと少しが……まだ足りない。
「ど、どうかな、このマホちゃん……?」
「あー、よくなってきてると思う。けどやっぱり……」
「そうだよね……」
自分でも分かるのか、
確かに以前までの日本三大
「ちょっと……休憩しよう」
「でも……」
「朝からずっと描きっぱなしだろ。この辺で休まないとかえって効率が悪いって」
「うん……」
不承不承といった感じにうなずいてちょこんとベッドの上に座りこむ。
もちろん、ただ休むだけじゃなくて、休憩中にやろうと思っていることがあった。
ええと、確かこの辺りにしまっておいたはずだけど……お、あった。
「よかったらこれでも見ない?」
「? これって……」
「うん、『魔法少女ドジっ娘マホちゃん』の前シーズンのブルーレイボックス」
しかも本編未公開特典映像のついている限定版である。頼んでもいないのに、布教用として
「
「あ、うん、見たい見たい!」
「よしきた」
うなずき返して、部屋にあるブルーレイレコーダーを起動させる。
『魔法少女ドジっ娘マホちゃん』は、いわゆる魔法少女ものの深夜アニメだ。
魔法少女に選ばれた主人公のマホちゃんが、人間の時間を
俺もちゃんと見るのは初めてだったけど……これが面白いんだよ。
笑いあり、友情あり、冒険あり、そしてちょっとしたお色気と涙もありと、エンタメ要素満載だ。なのにテーマが散漫になることなくうまくまとまっている。
そんな中、
「わたし……このシーン、好きだな」
「? このマホちゃんがオマール
「そ、それじゃなくて……ほら、こっちの
「あ、こっちか。確かに……」
それはストーリーの上ではそこまで重要というわけでもないシーンだった。
マホちゃんのドジを
だけどコミカルなピアニッシモちゃんは、どこか目を引くというか、見る人の心を
「……」
よっぽど気に入ったのか、
以前にもイラストに描こうとしていたことといい、ピアニッシモちゃんのことが好きなのかもしれない。
そうだ、だったらもしかして……
「なあ
「え?」
「このシーンを、ピアニッシモちゃんをメインにして」
本来なら、人気のあるマホちゃんをメインにするのがいいんだろう。
実際、今の今まではそうするつもりでやってきていた。
だけどそこまでピアニッシモちゃんが好きなら、そこにこめられている気持ちは他とは一線を画しているに違いない。見た目は何かアルファベットのPを適当に三つ並べただけみたいなマイナーキャラだけど、思い入れってやつは、きっと何にも勝る武器だと思うんだよ。
その言葉に、
「このシーンを、わたしが……?」
「ああ、どう?」
「こ、こんないいシーン、わたしに描けるのかな……? でも、描きたい、描いてみたい……分かった、やってみる!」
何かが吹っ切れたように、
その目には、これまでとは違う輝きが宿っていた。
そこからの
ほとんど飲まず食わずのまま手を動かし続けて、何枚も何枚もピアニッシモちゃんのイラストを描いていく。
「ん……違う、こんなんじゃないよ。こんなんじゃこのシーンを表現できてない……」
「あのさ、
「ピアニッシモちゃんはもっとけなげで、もっとマホちゃんのことを大切に思っていて……」
「ええと、
「……え? あ、何かな?」
その集中力は圧巻の一言で、俺が声をかけても気が付かないこともあった。
こうなったらもう俺に出番はない。
できることといったらせいぜい、食べることすら忘れている
雑事をこなしながら、
そのままどれくらい
気が付いたら、俺は眠ってしまっていた。
「ん、んん……あれ、もう朝か……」
窓の外からは
「……って、イラストは!?」
そのことを思い出し、慌てて隣を見る。
するとそこには……
「……ううん……せんせ……できたよ……」
テーブルに突っ伏して寝息を立てる
ピアニッシモちゃんがマホちゃんを助けているあのシーン。
どうやら俺がだらしなく寝落ちしてしまった後も
最後まで丁寧に仕上げられていたそのイラストは、それまでのどれよりも、心の入った出来だった。
「お疲れさま、
「……うにゃ……せんせーのバナナはもういいよぉ……」
かわいらしい寝言を小さく口にする
・
ピアニッシモちゃんがお気に入り。
・
バナナを食べる姿がかわいい。
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