第三話 9-11


「えっときみ、おかくんだっけ? だめだよ~、嫌がる女の子を無理やり誘おうとするなんて、もてないダメンズがすることなんだから」


 人差し指を立てながらちっちっちっとがそう言い放つ。


 おかが見るからに渋面になった。


「……何だお前は?」


「え、わたし? わたしはちゃんの親戚だよ」


「……ちっ、だれかと思えばただの親戚か。次から次へとどいつもこいつも……」


 そう言うとおかはドスドスと足音を鳴らしながら歩いていき、


「ガキは引っこんでろよ!」


 ドン! との肩までをも押そうとする。


 だけどその手は、彼女にまで届かなかった。


「は~い、乱暴は許しませんよ~」


 どこから現れたのか、サングラスをかけたにこにこ顔のメイドさんが二人の間に割って入った。何をやっているのか分からない素早い動きで、またたおかが床に組み敷かれる。


「くっ……お、お前……僕をだれだと思ってるんだ? たかだか親戚とそのメイド程度がおかグループの跡取りである僕にこんなことをしてただですむと思っているのか……!」


様~、確保いたしましたよ~」


「き、聞いてるのか……! どこの馬の骨かも分からないメイドの分際で、すぐにパパに言ってお前らなんかクビにしてやる──」


 テレビとかに出てくるなりきんかませ犬のサンプルみたいなおかの声は、だけど次の瞬間凍り付くことになった。




「お、おかーさん……」




「え?」


「み、おかーさん……それになみさんも……」


 とメイドさんを見つめながら驚いたように声を漏らす。


 おかーさん……?


 おかーさん……お母さん。


 って、お、お母様……!?


「え、あ、のお母様……?」


 きようがくして思わず声を上げると、──のお母様は、こっちを見てふりふりと手を振った。


「は~い、そだよ、おかーさんで~す♪」


 え、で、でも、アルバムに写っていた母親らしき人とは違う気が……


 というかそもそもこの子、中学生くらいじゃないの……?


「お、おかーさん、すごく若く見えますから……」


 若く見えるとかそういう問題じゃないよ!? 美魔女とか超越して、もうただの美幼女だよ!


 もはや驚きすぎて言葉も出ない。


 だけど俺以上に事態を受け入れられない人物がいたみたいだった。


「の、ざかさんの母親だと……そ、そんな、まさかお前が……」


「お前じゃないよ。ぷりてぃ~ちゃん♪」


様、おとしを考えてくださいませ~」


 おかを押さえつけたままメイドさんが笑顔で突っ込む。


「う……なみさん。い、いいじゃん、たまには少しくらい童心に返ったって。──まあ、冗談はさておいて」


 そこで……?)はこほんとせきばらいをした。


 そしてぐにおかを見下ろすと、ぜんとした声で、




「──わたしはざかざか家の家内序列第二位で、今日のパーティーを取り仕切ってる者だよ。おイタはそれくらいにしておこうね、おかクン」




 そう言い放った。


「そ、そんな、うそだ……こ、こんなことが……」


 おかががっくりと崩れ落ちる。


 うん、まあ信じられないっていう気持ちは分かるけど……完全にごうとくですよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る