第三話 10-11


    5




「ごめんね~、だましてたわけじゃないんだけど、結果的にはあれだったよね~」


 色々と波乱尽くめだったパーティーが終わって。


 パーティー会場からざか家の私室に通された俺は、──いや、のお母様であるさんとのご対面を果たしていた。


「ほら、何てゆうか、ちゃんがご執心なさわむらくんっていうのを、じかに見てみたくてさ~。もしかしたら名前もばれてるかなって思ったから偽名を使ったんだけど、意外にばれないもんだね~」


「はあ……」


 観察希望って、そういうことだったのか……


 ちなみにふゆと三K、神楽かぐらざか部長には先に帰ってもらったため、この場にいるのは俺とさんとメイドさんだけである。さんのかたわらに控えているサングラスのメイドさんはなみさんといって、さん直属のお付きのメイドさんだとか。


 さすがにざか家の偉い人ともなるとお付きのメイドさんとかが普通にいるんだ……と恐れ入っていると、が「え? わたしにもいるよ。しずさんっていって、今は休暇中で京都に里帰りしてるんだけど」と言っていた。お付きのメイドさんはざか家スタンダードなんですね……


 あとおかだけど……なんかあの後、父親が身柄を引き取りに来ていたみたいだった。事のてんまつを聞かされた父親は真っ青な顔になっておかといっしょにダイビング土下座を決めていたとか。気の毒だとは思うけど同情の余地はあんまりないよね。


「だけど、もう、さっきはびっくりしたよ……おかーさんがせんせーといっしょにいるんだもん」


 が腰に手を当ててそう言う。


「あはは、ごめんごめん。でもおかげで、さわむらくんのことはよく分かったからさ~。ね、おに~さん♪」


「は、はあ……」


「ふふ」


 そう笑うと、さんはこっちを見てぺこりと頭を下げた。


「というわけであらためまして……ざかだよ。おかーさんって呼ばれてるけど、正確には母親じゃなくて、ちゃんの叔母にあたるの」


「え、そうなんですか?」


「うん。ちゃんのお母さんはわたしのお姉ちゃんなんだけど、ちょっと事情があって、ちゃんは子どもの頃からわたしが面倒を見てるんだよ。だから十年以上の付き合いで、仲がいいっていうのはうそじゃないかな~」


 何だろう……何か理由があるのかな。


 気にはなったものの、今の俺の関係性ではそこまでは踏み込めない。


 ただ、だからあのアルバムに写っていた女の人と〝おかーさん〟は別人だったんだ、と納得した。


「でも、わたしはおかーさんのこと、本当のお母さんみたいに思ってるよ。あ、もちろんお母さんのこともちゃんとお母さんだと思ってるけど、それとは別で、何ていうか二人お母さんがいる感じっていうか……」


「あはは、ありがと、ちゃん」


 屈託なく二人で笑い合う様子から、少なくともさんとの関係は良好であることがうかがえた。


「ところでさわむらくん」


「はい?」


「きみの前だと、ほんとにちゃんは無防備なんだね~」


 楽しげにそう言って、小悪魔みたいにさんは笑った。


「こんなにちゃんが楽しそうにしてるの、はじめて見たかも~♪ ほんっとに幸せいっぱいなんだもん。もう、ちょっとけちゃうかも~、このこの~♪」


「ちょ、ちょっと、お、おかーさん!」


「ふふふ~」


 が小さく声を上げるも、さんは余裕の表情でそれを笑う。


 育ての母親だけあって、さんには頭が上がらないみたいだ。


「も、もう、おかーさんはいっつもそんな調子なんだから。それじゃあ行こ、せんせ」


「え?」


「わたしの部屋だよ。ほら、見せたいものがあるって言ったじゃん。じゃあね、おかーさん。またあとで」


 そう言って、とてとてとがドアの向こうへと歩いていく。


 さんたちに軽くしやくをしてからそれを追おうとして、


「──さわむらくん」


「?」


 ふいに、さんに呼び止められた。


ちゃんと仲良くしてくれてほんとにありがとう。ちゃんもおに~さんのことが好きみたいだし、とっても感謝してる。──だからね」


 そこでさんは一度言葉を切った。


 どこか真剣な顔になってぐにこっちを見ると、


「だからおね~さんから一つだけ、言っておきたいことがあるんだ」


「え、はい」


 何だろう?


 首をひねる俺に、







「え……?」


 ぴっと人差し指を立てて、そう言った。


「目に見えているものが全部だとは限らない。そこにあるものだけが本当のことだとは限らない。女の子は役者だからね。タマネギみたいなものかな? 皮を一枚いた後には、ほんとはもっと厚い皮があるかもしれない。そのことを、覚えといてね」


「は、はあ……」


 何の話だろう。いいタマネギの見分け方のコツ?


 何だかよく分からないまま、再度頭を下げて部屋を後にした。


 この時は何を言われているのかさっぱり分からなかった。


 だけどしばらく後になって……その言葉に込められていた意味を、心から知ることになるのである。


 ともあれこうして、の〝おかーさん〟ことさんとの初対面を終えたのだった。






 ・ざかの秘密㉝(秘密レベルA)


 しずさんというお付きのメイドさんがいるらしい。


 ・ざかの秘密㉞(秘密レベルS)


 叔母さんであるさんが母親代わりとなっている。


 ・ざかの秘密㉟(秘密レベルB)


 さんには頭が上がらない。

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