第三話 11-11
6
そして本日のラストステージ。
俺は……
広さはちょっとした教室ほどだった。
全体的に淡いパステルカラーを基調とした
しかも何だかいい匂いがして……頭がクラクラしてしまう。
「それで、見せたいものって……」
「うん……」
ふいに
もじもじと恥ずかしがるように背を向けると、こちらの様子をうかがうように小さく口にした。
「……見せたいっていうか……もらって……ほしいの……」
「え?」
「……せんせーに、もらってほしいの……」
「え……!」
も、もらうって何をですか?
突然の思ってもみなかった言葉に動揺する俺に、
「わたしのはじめてだから……や、やっぱり、恥ずかしいけどせんせーにあげたいかなって……」
そう言って目を潤ませながら近づいてくる。
え、え……だ、だから、あげるって、何をですか……?
動揺しまくる俺に、そっと紙のようなものが差し出される。
そこにあったのは……
「こ、これって……」
賞状だった。
なかなかに立派なデザインで、そこには『魔法少女ドジっ娘マホちゃんイラストコンテスト・キャラクター賞』と書かれている。
「これ……こないだのイラストコンテストの賞状なんだ。一昨日届いたの。こんなのもらったのははじめてだから、やっぱりせんせーにあげたくって……」
「……」
「……ちょっと恥ずかしいんだけど……もらって……くれないかな……?」
「……」
ですよね! 理解してた! 潤んだ目をした女子が恥ずかしがりながら部屋で二人きりになってもらってほしいものなんて、賞状以外にあり得ないよね……!
「ん? どしたの、せんせー。おあずけをくらったダックスフントみたいな顔して」
「何でもないよ!」
血の涙を流しながらそう答える。
「? よく分かんないけど……とにかく、はじめてのことだったんだよ。だからせんせーにもらってほしくて……」
「だけどこれは
だったら
そう言うと、
「だってこれ……せんせーが応援してくれたから、何とかとれたものだもん。むしろせんせーのものだって言ってもいいくらいだよ」
「それはどうかと思うけど……」
「それに、わたしには副賞でもらったこれがあるから」
ドン! っと何かを目の前に置く。
それはなんか……巨大なアルファベットだった。
「ピアニッシモちゃん@バトルモードの等身大ぬいぐるみクッション。これ、ほしかったんだ~」
でかっ!
ピアニッシモちゃんこんな巨漢だったっけ……?
ちょっとしたヒグマくらいあるよ。
「とってもふかふかなんだよ? 触り心地とかもとってもよくて、人間をだめだめにする感じ。ほら、せんせーもだめになろうよ~」
「お、おう」
「へへ~、せんせといっしょにふかふか~」
ピアニッシモちゃんの腹部に身体を埋めるようにして二人で寝転ぶ。
確かにピアニッシモちゃんはふかふかで柔らかで、ものすごく心地いい。人間をダメにして
だけどそれ以上に、
「えへへ~、何だかこうしてると、せんせーと家族になったみたい」
「…………」
隣でとろけそうな笑みを浮かべながらそんなことを口にする
使い捨てカイロみたいに熱くなる顔面を隠そうとして、ピアニッシモちゃんの腹部に強く顔を埋める。
だけどそこで想定外のことが起こった。
ピアニッシモちゃんの中身はビーズ素材であるがゆえに流動性があって、流動性があるということは二人で寝ている状態で一カ所が沈み込めば当然それに合わせてもう一人もそこに転がってくるということであって……
コロリ。
「あ……」「え……」
そんなかわいらしい擬音が聞こえてきそうな勢いで、
ピアニッシモちゃんに優しく包まれるかたちで……
それもお互いの頬と頬が触れ合ってしまいそうなくらいの至近距離。
「……っ……」「……!」
思わず声を上げてしまう。
突発の交通事故だ。
「あ、ご、ごめん!」
「う、ううん……! だ、だいじょうぶだから……!」
お互いに謝り合う。
だけどどうしてか、どちらもその状態から動くことができない。
どうしてか……目を
心臓がやかましいくらいにズゴゴンズゴゴン! と工事現場のように鳴り響き、柔らかなビーズ素材を伝わって
「……」「……」
こうして見ると……本当に
空に浮かぶ月みたいにぱっちりとした目、さらさらでいい匂いのする髪、雪のように真っ白な肌、桜のように
そんなことを考えていると、
「……」
すっ……
頬を赤くした
「……!?!?」
え、な、何でそこで目をつむるの……!?
意味が分からない。
昨今の仮想通貨の値動きくらいに
「……」「……」
ただ一つだけ分かることは……僅かにでも俺が顔面を動かせば間近には
……………………
…………
……
……が、顔面、動かしちゃってもいいかな……?
静かに目を閉じる
「う~ん、個人的にはこのまま見てみたいところだけど、やっぱり保護者としては目の前でまさに今にゃんにゃんが行なわれようとしているのは見過ごせないかな~」
「!!」「!?」
頭上から声が響いた。
慌てて顔を上げるとそこには……腕を組みながらこっちを見る
「お、おかーさん、
「! な、何でいるんですか!?」
ほとんど絶叫する勢いでそう声を上げる。
「ん~? さっき言い忘れちゃったことがあってさ。夕飯、うちで食べてくか
「私たち、お邪魔でしたかね~?」
「う、うう~……(真っ赤)」
「……」
ああ、これ絶対確信犯(誤用)だ……
間違いなく声をかけるタイミングを計ってたよ……
結局この後、夕ご飯をごちそうになって食後のデザートまでいただいたわけだけど、その間ずっとこの一件のことをいじられ続けたのだった。うぁあ……
・
人間をダメにするクッションがお気に入り。
・
真っ赤になってもこの上なくかわいい。
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