第四話 13-13


    7




 日が落ちた学園内は、どこか独特の雰囲気に包まれていた。


 校庭ではこうこうと輝くキャンプアファイヤーが設置され、その周りではたくさんの生徒たちが穏やかな音楽に合わせてフォークダンスを踊っている。


 色々あったものの無事に『はくほう祭』は終了を迎えて。


 今は──後夜祭の真っ最中だった。


「わ、見て見て、せんせー。炎がすっごく高くあがってる!」


「あ、本当だ」


かがりみたい。きれいだね~」


 俺たちは笑い合いながら、屋上から校庭の様子を眺めていた。


 周りには他の生徒たちの姿はなく、二人だけである。


 あの後も──はたくさんの生徒たちに囲まれて、『ぽろりもあるよ! 〝アキバ系〟大クイズ大会』の優勝を祝福されていた。


 その際に昨日の一件に触れられることもあったけれど、あらかじめ打ち合わせてあった通り、あれはドッキリだったとして通した。もともとふゆがフォローしてくれていたおかげもあって、それはすんなりと受け入れられたものの、なぜか俺の微妙な評判(量産型イカクリムゾン野郎)だけは僅かに残ったのだけがそこはかとなく納得いかない。けど、うん、まあそれくらいしょうがないか。ちょっと調子に乗ってグログロ笑いすぎたところもあるし……


 そして今、は新たな名前で呼ばれている。


 ──『白銀の星屑ニユイ・エトワーレ』。


『ぽろりもあるよ! 〝アキバ系〟大クイズ大会』の優勝を通して、無事に引き継ぐことになった称号だ。


 これでこれからも、らいお姉さんの道を違うことなく辿たどることができるようになった。


 無事に〝秘密〟を守り通すことができた。


 色々あったけど(本当に)……うん、これで一件落着だ。


「……それにしても、本当にありがとう。せんせーがいなかったら、もうだめだった」


 と、がキャンプファイヤーのあかりを背景にぽつりと口にした。


「〝秘密〟が隠せなくなって、お姉ちゃんの道を辿たどることができなくなって、すべてを投げ出すしかなくなって……心が折れちゃってたと思う」


「そんなことないって。ががんばったからだよ」


 それは、何もしていないとは言うつもりはないけど(グロッグロッグロッ)、それでもこの結果が導き出された一番の要因はが諦めなかったからだ。


 常日頃から勉強に習い事に〝アキバ系〟に励んで、らいさんの背中を追うべくけんさんを続けていた。いつだってひたむきに前を向いていた。


 その努力の下地があったからこそ、リカバリーができたのだ。


 だけどは静かに首を振った。


「ううん……そうだとしても、せんせーがいてくれたから、投げ出さないでやれたんだよ。せんせーがそばにいてくれるって安心できたから、目標に向かってぐ進めた。……不思議だね。せんせーの前だと、素の自分とか〝秘密〟とか、そういうのを全部忘れられる。とっても自然な自分でいられる気がする……」


……」


「何だろ……せんせーはやっぱり王子さまなのかな?」


 そう小さく笑うと、は俺の腕をくいくいと引っぱってきた。


「ね、せんせー、わたしたちも踊ろうよ」


「え?」


「ほら、せっかくの後夜祭なんだから。ね?」


 そう言うに促されて屋上の中央へと進む。


 そしてたどたどしいながらもダンスを踊ろうと試みる。


 遠くから響く音楽、うっすらとオレンジ色に染まった屋上、微笑ほほえみを浮かべる


 この上なくいい雰囲気なのに、うーん、フォークダンスとか踊ったことがないから壊れかけたペッ●ーくんみたいになってしまいますね……


 がうまくリードしてくれているから何とか形にはなっているけど……


「こうやって……お母さんも、踊ったんだって」


「え?」


 と、がこっちを見上げて言った。


「文化祭の後の後夜祭……お母さんもお父さんもここの、はくじよう学園の出身だったんだけど、その時に二人でいっしょに踊ったんだって」


「そうなんだ……」


「うん。とっても素敵だったって、今でも忘れられない〝秘密〟の思い出だって、昔そう言ってた……」


 どこか憧れるように空を見上げる。




「……わたしも……お母さんたちみたいになれたらいいな……」




「?」


「あ、う、ううん、何でもないよ!」


 慌てたようにはぶんぶんと頭を振った。


 そして話題を変えるようにこう口にした。


「あ、そういえば、〝秘密〟といえばね。実は……せんせにもまだ言ってない〝秘密〟、たくさんあるんだよ~」


「え?」


 まだあるの!?


 これだけたくさんニョキニョキと雨後のタケノコみたいに出てきたのに、けっこう秘密レベルの高いものもあったのに、まだ……??


「ち、ちなみにそれって、どんな……?」


 俺がくと、はにっこりと笑って耳打ちをしてきた。




「──、だよ」




「!?!?」


 え、そ、それ……かなかった方がよかった気が……


 どうしよう、まさかそんな思ってもみなかったことを聞かされるなんて。一人で背負うには重すぎるよ……


「あ、でもね、それよりも大事な〝秘密〟、できちゃったかもしれない」


「え……?」


 い、今のあれらよりもさらに大事な……?


 それって何!? 地球しゆうえんとか人類滅亡に関わる何かとか……?


 きようがくの事実に戦慄する俺に、




「それはね、せんせーのことが……」




 何かを言いかけて、だけどは首を横に振った。


「……ううん、やっぱり言わな~い」


「え?」


「うん、これはせんせーにはまだ教えられないかな。またの、お楽しみ♪」


「え、え?」


 さらに混乱する俺に。


 はいたずらっぽく笑って、こう口にしたのだった。




「──〝秘密〟、だよ♪」






 ・ざかの秘密㊺(秘密レベル???)


 ???

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