第一話 2-14
『AMW研究会』の部室は、文化部棟の一番奥にある。
「こんにチワワー!!」
放された犬みたいにハイテンションにそう声を上げる
部室はシンプルな造りで、広さは十畳くらい。部屋の真ん中にテーブルとパイプ椅子が置かれていて、脇にある棚にはたくさんの漫画や小説や同人誌、ゲームやフィギュア、同人CDなどが並べられている。
中にはすでに先客がいた。
「おお、
テーブルの一番上座で手を振っていたのは、三年生の
黒髪ロングで背の高い美人系。
そして、
「やあ、
「ニーソックスが似合っていますね!」
「その禁断の絶対領域に顔面を挟まれてハアハアしたいぜ……!」
その周りで分かりやすい変態発言をしていたのは、
『AMW研究会』は今の四人を含めた全部で七人の部員で成り立っている。
そして現在この部室内にいるのは部長、三K、
一人足りてないって思うだろう?
それは……
「あ、
と、そこで三Kの一人がご主人様を発見した犬みたいに声を上げる。
声につられて部室の入り口に目をやると……そこには、女神がいた。
「あ──こんにちは」
その透明な声に、耳に天使が舞い降りたかと思った。
どうやったらそこまで艶が出るんだろうってくらいにさらさらな髪、たぶん俺の二倍くらいの大きさがあるぱっちりとした二重の瞳、春の色をそのまま映し取ったみたいな桜色の唇。まるで全身がうっすらと光のヴェールに包まれているかのように輝いて見える。いや実際に光っているわけじゃないんだけど、そう見える。あれはきっとオーラというんだろう。
──
容姿端麗で成績優秀。
品行方正で性格も良好。
さらには日本でも有数の財閥だと名高い
そんなほとんど二次元世界の住人みたいな完璧超人始祖は、俺と
そう、半ば信じられないんだけれど。
彼女、
聞いた話によると、何でも彼女のお姉さんがかつてこの『AMW研究会』の部長を務めていて、様々な伝説を残していたらしい。その縁で、
「
「あ、はい、見ました。Cパートの作画がぬるぬるで、素晴らしかったですよね」
「おお、分かりますか! さすがは
「我々も見習わなくてはいけませんね」
そしてこの
今期のアニメについても
さらには実践(?)にも通じているらしく、自分でイラストも描いたり、小説も書いたり、作曲をしたりしているとのことだ。実際に聞いたわけじゃないんだけど、入部してきた初日に三Kたちが大声で自分のことのようにそう自慢していたからよく覚えている。うーん、すごいなあ。こんな方面にまであますことなく完璧超人っぷりを発揮しなくてもいいのに。
それを裏付けるがごとく、今も三Kたちの勢いに一歩も遅れることなく、今期のアニメについて語り合っている。
「
「そうですね、やっぱり主人公のマホちゃんでしょうか。明るい顔の合間に見せる陰のある表情がとても素敵だと思います」
「うむうむ、分かりますぞ!」
「それとお供のピアニッシモちゃんの気持ちに共感できるかもです」
「あ、それ分かる分かるー。私もねー、ピアニッシモちゃんのけなげでマホちゃん
「それは尊いですな……!」
盛り上がってますね。
というかいつの間にか
「いやいや、
「え?」
「ほら、入部初日の時に。
「あ……え、は、はい」
「でしたら今度、『魔法少女ドジっ娘マホちゃん』のイラストを描いてくださりませんかな?」
「え?」
「おお、それいいな! きっと
「僕も賛成です。『AMW研究会』の宣伝とかにもなるかもしれませんしね」
「あ、ええと、それは、その……」
「……(無駄にキラキラした目)」
「……(無駄にキラキラした目)」
「……(無駄にキラキラした目)」
「……わ、分かりました。その、やれるだけやってみます」
「やりましたな!」
「ひゃっほう!」
「これでまた生きる楽しみができたというものです!」
三Kたちがハイタッチをしようとして空振りをしてお互いの顔面を
イラストかあ……
自分でやってみようとは思わないけど、描ける人は素直にすごいと思う。
と、そんなことを考えていると。
そこでふと、
「……っ」
思わぬ視線の交錯に俺がどうしていいか分からずにいると、
うう……正直、人を殺せるレベルのかわいさだ。
「それじゃあせっかく全員集まったんだから、大いに語り合おうじゃないか! 私としては今期ナンバーワンのカップリングが何かについて言及したいところだが、まあそれは後にするとして。まずは今期の覇権が何であるかについてだけれど……」
とまあこんな感じに、ゆるゆると『AMW研究会』は活動をしているのだった。
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