第一話 1-14
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この春に俺──
生徒数は三学年合わせて四百人ほどで、位置づけとしては上の中くらいの進学校。昔はそこまででもなかったらしいけれど、ここ数年で飛躍的に成果を伸ばしてきたのだという。
といっても、勉強勉強と堅苦しいわけじゃない。
校風自体はどちらかと言えばのんびりとしている。校外活動や部活動もそれなりに盛んで、どちらも自由参加ではあるけれど、中には全国レベルに達しているものもいくつかあるのだという話だ。
実際、同じ中学で野球をやっていた友だちは、野球部に入って甲子園を目指すんだ! と血走った目で通学路で金属バットを思い切り振り回しながら息巻いていたし、吹奏楽部だったクラスメイトは絶対に普門館に行ってみせるんだからと朝の全校集会でトランペットを大音量で吹きながら張り切っていた。うーん、青春だなあ。どっちも停学になったけど。
だけど俺が入ったのは……そんな志を共にする熱い仲間たちと青春を
俺が入った、いや正確に言えば入らされることになった部活という名のたまり場は──
「
と、そこで背中をドンと
振り返るとそこにいたのは、にこにこと虫も殺さないような笑みを浮かべた一人の女子の姿。
「
「ほらほら、楽しい部活の時間だよー! やっと授業が終わったんだから、張り切っていこー!」
どこかアニメがかったソプラノの声が教室に
この女子の名前は
近所に住んでいる幼稚園からいっしょの十年来の
この
黙っていれば顔立ちの整った、普通にかわいいと言っていいレベルの元気系女子だ。
ただそれは、あくまで口を開かなければの話であるわけで……
「ところで
「……」
「ねえねえ
「……うん、分かった、分かったから一瞬黙って。な?」
これだよ。
一度
そう、この
A(アニメ)M(マンガ)W(ウオッチング)の略で、名前の通り、漫画やアニメ、ゲームなどの〝アキバ系〟を趣味とする者たちの部活である。ちなみに決してどこぞの巨大出版社の某事業局の略ではない。
特に入りたい部活があったわけでもないので構わないといえば構わなかったわけだけれど、まさか自分がこういった部活に入るとは思わなかった。
正直俺はそこまでディープに〝アキバ系〟方面にはまっているわけじゃない。
でも別に、
アニメは録画まではしていないし寝ていて見逃すこともある。漫画も発売日に手に入らなくてもそんなに気にならないし、ゲームはムキになって課金をするほどじゃない。
いわゆるそう、ライト層だ。
ちょっと悪意を込めて言えば、にわか、とも言う。
何でもこういった〝アキバ系〟の趣味は、かつては周囲から白い目で見られたり、陰で色々と言われたりしたことがあったらしい。隠さないと、それこそクラスで孤立してしまうくらいに。
だけどそれも今は
と、そんなことを考えていると、
「んー、何難しい顔してるのかな? あ、分かった、『魔法少女ドジっ娘マホちゃん』のブルーレイボックスを、どこの店舗特典で買おうか悩んでたんでしょー? 分かる分かる。ふっふっふ、
「ぜんぜん違います」
「えー、そうなのー?」
何もお見通せていない。
「そうです」
「ちぇー、残念。
そう言って背中をぐいぐい押してくる。
「わ、分かったから、そんなに
「それでねー、さっき言ってた『魔法少女ドジっ娘マホちゃん』のフィギュアなんだけど、造型師さんがすっごい有名な人でー」
「はいはい」
歩きながらもまたマシンガントークを繰り広げてくる
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