第四話 5-13


 さて、文化祭の出し物といえば定番中の定番のものがある。


 これを外しては学園祭は語れない、どこに行っても必ず一つはあるスタンダードと言えるもの。


 屋台を見終わり、校舎内に入った俺たちが歩いていた先にその出し物はあった。


 それは、


「……いらっしゃいませー……百鬼夜行と悪魔たちがばつするきようかんの恐怖の館はどうですかー……?」


 まみれの白装束をまとった女子生徒がおどろおどろしい声でそう誘う。


『大絶叫! 悪魔が来たりてキョンシーが跳ね回るもうりよう・妖魔の館』と書かれた真っ赤な看板が、そこにあった。


「さ、さわむらさん、これ……」


「お化けしき、だね……」


 作り込まれた外観といい女子生徒のメイクといい、ずいぶん本格的だ。


 といってもいまいち国籍が渋滞気味だけれど……


「うちのクラスのお化けしきは、演劇部と映像部と怪談研究会がプロデュースしてますからねー……怖いですよー、恐ろしいですよー……」


 いやあなたの顔が怖いんですが。


「どうですかー……あなたも恐怖の神髄を味わってみませんかー……?」


「せ、せっかくだから、入ってみましょうか……?」


「え……」


 がこっちを見上げながらそう言った。


「ほ、ほら、お化けしきといえばやっぱり学園祭の目玉ですし……」


「あ、うん、がそう言うなら……」


 拒否する理由はミジンコの欠片もない。


 小さくうなずくとともに、『大絶叫! 悪魔が来たりてキョンシーが跳ね回るもうりよう・妖魔の館』へと入る。


 教室の中は真っ暗だった。


 辺り一面暗幕で覆われていて、あかりとなるものは各所に据え付けられたキャンドル型のライトくらいである。


「は、離れないでくださいね……?」


 ぎゅっとが腕につかまってくる感触が伝わってくる。


 う、柔らかい。周りが完全な暗闇なだけに他の感覚が鋭敏になっているため、よりそこがきわつというか……


 少しだけ心臓がトゥンク……と動くのを感じながら進んでいく。


 と。


「シャー!」


「きゃ、きゃあああっ……!」


 物陰から河童かつぱが飛び出してきた。


 皿がぬめぬめとてかり、深緑色の身体をしただいぶリアルな河童かつぱだ。


「い、いやぁああああ……」


「あ、、大丈夫……?」


「う、ううう……」


 ぎゅぅううううううう。


 思いっきり抱きついてきてそのまま俺のシャツの中に顔を突っ込んでくる。だけど、その、は全体的に柔らかいためほとんど痛くない。


「ほ、ほら、もう河童かつぱはあっちに行ったから……」


「…………」


 袋から外の様子をうかがうカンガルーみたいに、俺の腕の隙間から顔をちょこんと出してくる。


「ギャー!」


「!!」


 と、今度は吸血鬼がかんおけの中から飛び出してきた。


 再び袋に入ったカンガルー状態になる。


「……う、ううぅうう……」


 その後も、暗がりからぬらりひょんが出てきたかと思えば、その股下からゾンビがしてきて、ドラゴンが歩き回る向こうをキョンシーが一つ目小僧を背負ってピョンピョンと跳ねていた(節操ない……)。


 はその間ずっと、俺のシャツをかぶって布地越しに辺りの様子をうかがっていた。






「う、うう、お化けしき、あんなに怖いとは知りませんでした……」


『大絶叫! 悪魔が来たりてキョンシーが跳ね回るもうりよう・妖魔の館』を出て。


 が涙目でそう口にした。


、自分から入ろうとしてたから、得意なのかと思った……」


「得意とか、よく分かりませんでした。その、はじめてだったので……」


 あ、やっぱりはじめてだったのか……


 そうじゃないかとは思っていたけど……


「でも……これもまたメモリアルです」


「メモリアル……」


「はい。怖かったけど、何だか胸がすごくどきどきしました。こんなに興奮したのは……はじめてかもしれません。さわむらさんの……おかげです♪」


 そう言って「え、えへへ」と微笑ほほえんでくる。


 う、か、かわいい……!


 かわいさに戦闘力があるのなら五十三万をはるかに超えてまだ変身を三回残しているところだ。スカウター壊れちゃうよ……




『──間もなく、「ぽろりもあるよ! 〝アキバ系〟大クイズ大会」が開催されます。出場者及び観覧者の方は、校庭中央のメインステージまでお越しください』




 やがて校庭の方からそんなアナウンスが聞こえてきた。


 いよいよ『ぽろりもあるよ! 〝アキバ系〟大クイズ大会』の時間みたいだ。


「行こうか」


「はいっ」


 うなずき合って。


 メインステージへと向かったのだった。




 ──このクイズ大会が、俺たちの大きな転換点となるとも知らずに。






 ・ざかの秘密㊶(秘密レベルC)


 タコ焼きを食べたことがなかった。


 ・ざかの秘密㊷(秘密レベルB)


 お化けしきも入るのははじめて。


 ・ざかの秘密㊸(秘密レベルC)


 かわいさの戦闘力がフリー●並み。

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