第四話 8-13
4
「来ると思ったよ、おに~さん」
相変わらずの見上げるほどの高さの門の前で腰に手を当てて、メイドさんとともに俺の顔をじっと見上げている。
その真剣な表情から、だいたいの事情は察しているだろうことがうかがえた。
「
「あのね、
「……はい」
その返答に、
「じゃあとにかく詳しい事情を聞かせてもらえるかな? ま、こんなとこでする話でもないから、とりあえず中に入って。
「かしこまりました~」
前回と同じように五分かけて庭を通り抜けて、
さらには
「ニルギリのファーストフラッシュでいいかな? ティーフードはプラムプディングで」
「え、あ、はい」
何て言ったの? 握りのファストパス……?
聞き慣れない単語に首を
そのまま高い位置からポットを傾けて、見事な手並みでカップに紅茶を注いでくれる。
「どうぞ、冷めないうちにお召し上がりくださいませ~」
「あ、はい、いただきます」
薫り高い紅茶は、今まで飲んでいたものとはまるで別物で、浮き足立つ心を少しだけ落ち着かせてくれた。
「で、何があったのかな?」
カップをソーサーに置いて、
「ていっても、おおむね想像はついてるんだけどね。
それは確認というよりもほとんど確信のこもった言葉だった。
俺はうなずき返す。
「まあ……そうです。その、今日が文化祭だってことは知っていると思うんですけど、そこでクイズ大会があって……」
最後まで事の
「じゃあ、危ないところだったけど、〝秘密〟の肝心のところはばれてないってこと……?」
「そうですね。そこは大丈夫だと思います」
俺の猿芝居がかろうじて功を奏したかたちだ。
いや、正確に言えば一人グレーゾーンの相手がいるんだけど、その話はまた後で。
「そっか、ならまだよかったよ~」
そして少しだけ苦笑いを浮かべて、こう口にした。
「それにしても……皮肉なもんだよね」
「え?」
「お姉ちゃん……あの子の母親は、まったく逆のことで悩んでたことがあるんだよ」
「逆って……」
「あの子の母親ね、三度のご飯よりも趣味を優先するくらいの生粋の〝アキバ系〟だったの。だけどそのことをだれにも言えないで苦しんでた。ずっと〝秘密〟にしてた。そのことが周りにばれかけて、部屋に閉じこもったこともあったんだよ。ま、あの頃は〝アキバ系〟に対する風当たりがだいぶきつかったからね~。しょうがないといえばしょうがなかったんだけど」
「そんなことが……」
それは、確かに今の
「それが今や〝アキバ系〟でないことを隠さなきゃいけないなんて、時代も変わったもんだよね~。それはわたしも
いやあなたぜんぜんとってないでしょ。このままいけばロリババアの道まっしぐらか……
十年後にもまったく変わっていなさそうな
「でも……ほんとにありがとね、
そう言って、
「いえ、それは」
自分がそうしたいと思ったから、
だから迷惑だなんてこれっぽっちも、
ただ
「でも……何だか
舞台袖ですれ違った時の
お嬢様モードでも、
強いて言えば、最初に出会った時──本屋で取り乱して俺のことを闇に
それを聞いていた
「……そっか、やっぱりおに~さんは、気付いているんだね」
「気付いている?」
って、何をですか?
「そこまで分かってるなら、おに~さんは知っておくべきかもね」
「え……?」
そう言うと、
そして
「
「も~、こうゆうところは母親にそっくりなんだから」
「ほら、
「……」
返事はない。
「
「……」
返事も気配もない。
本当にこの向こうに
「ほら、出てこないと
ガタッ!! ドタン!! ドゴッ!!
中からなんかものすごい音がした。
続いて、
「…………だ、だめ……せんせーと『魔法少女ドジっ娘マホちゃん』を見るのは……わたし、だけなの……お、おかーさんでもゆずれない……や、闇に
と、世界を呪うような声が漏れ聞こえてきた。
それは普段の
「ほら~、だったら話だけでもさせてくれないかな。わたしたちはともかくとして、
「…………」
沈黙。
だけどやがてカチャっという音が小さくドアの内側から響いた。
中から鍵が開けられたのだと、すぐに分かる。
「開いたみたい。あとは王子さまにお任せするしかないかな~」
「そんな柄じゃないですけど……はい」
精一杯の気持ちを込めてうなずき返す。
それを見た
「
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