第二話 6-8
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不運と言うのにはあまりにも悲しすぎる出来事を乗り越えて、本来の目的地の一つである水族館へとやって来た。
サンシャイン60に併設されているサンシャインシティの屋上にある、都内でも有名な水族館。
ここはマホちゃんが水のクリムゾンである醜悪なイカと触手入り乱れる死闘を繰り広げた場所である。
ちなみに醜悪なイカクリムゾンは、以前の合宿時に俺がなりきって
「わ、すごいすごい、アニメとおんなじ場所だ! そこの水槽をマホちゃんがマジカルデストロイナパームで大爆破したんだよねー?」
「そうそう、それでちぎれた足を食べることで魔力を回復して」
「あの時はどうなるかと思ったよ~。まさかイカがタンパク質とタウリンが豊富なことを利用してピンチを切り抜けるとは思わなかったな~」
そんなイカした会話をしながら、ガチャをやる場所を探すべく水族館を進んでいく。
どうせやるならやっぱりイカの水槽の前だろう。
だけど肝心のイカの水槽の前には先客がいた。
「…………」
何か……ずっとイカを見つめたまま微動だにしない人がいる。
ショートカットの女の人だ。確認しているだけでさっきから三十分以上もそこにいる。イカマニア……?
うーん、何であれまいったな、水族館でガチャとかある意味浮いてるから、できればだれもいない状況でやりたかったのに。
ひとまず様子を見るために水槽に近づく。
イカの水槽は暗がりに置かれているため、その距離まで寄って、そこで初めてイカマニア(推定)の人の顔がちらりと見えた。
あれ、この人……
その顔には見覚えがあった。
「ね、せんせ、あの人ってもしかして……」
さっきからイカを我が子を見るみたいに凝視している怪しい人。
イカクイーン(推測)は……
何でこの人がこんなところでイカをガン見しているんだろう……と首を
「ん?」
俺たちの姿を見て驚いた表情になる。
「あれ、
「あー、こんにちは」
「こんにちはです、
慌てて挨拶をすると、
「珍しいね、こんなところで会うなんて。二人はどうしてここに来たの? イカが好きなの?」
「あ、ちょっと用事があって……」
「ふーん、デート?」
にやりと意味深に
「え、い、いや、その、これは何というか……」
「やっぱりデート……なのでしょうか?」
首をちょこんと傾けながらそう言う
「んー、客観的に見れば、デートかな。というか、男女二人でイカを見にくればそれはもう立派なデートだよ! それ以外にあり得ない。あ、別にあおってるわけじゃないんだよ? イカだけに」
何を言ってるんだかさっぱり理解できない。
この人も……よく分からない人だ。
うちの学校の音楽非常勤講師。
普段はピアニストをしているのだけれど、前任の音楽教師(念願だった結婚をして一年間の世界一周イケメンだらけのハネムーンに出たらしい)にどうしてもと頼まれて、非常勤として勤めているのだという。
フレンドリーで先生ぶらないことから生徒にも人気があって、印象としてはきれいな
「そういえば
「え? あ、はい。たぶん元気だと思います。あまり会えていないのでそこまでは分からないのですが……」
「そうだよね。二人とも忙しいもんね。それぞれ
「あの、先生はお父さんとお母さんのこと……?」
「あ、そっかそっか、最後に会ったのって、まだ
「え、ええと、あの……?」
「あ、ううん、いいのいいの。気にしないで」
「は、はあ……」
「それじゃああたしはもう行くね。邪魔してごめん。また学校でね」
そう言って、
最後にイカの水槽を見て、「またね……」と切なげに言うのを忘れずに。
本当に……意味が分かりません。
・
両親が
そしてイカの水槽前でのガチャ。
「こ、今度こそ、マホちゃん出るかな……?(どきどき)」
ディスプレイからはこれまでとは違う虹色がかった光のエフェクト。おお、これはついに来たか……と思いきや。
出てきたのは……『マホちゃん・テンタクルスウイップ☆四』だった。
「……」
「……」
何これ、イカの呪い……?
いやこれはこれでレアではあるんだけど!
いちおうマホちゃんではあってもマホちゃん違いだよ……! 貴重なミシマコクワガタだと思ってネットオークションで購入したらただのコクワガタだったみたいな!(分かりづらいたとえ)
「……せんせー、わたし、マホちゃんに嫌われてるのかな……」
「……」
イカの触手でさんざんなぶられた後に服を溶かされ白いイカスミをかけられたマホちゃんみたいな顔になる
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