第四話 2-13


    1




「クイズ大会か……」


 部活が終わって。


 この時間でもまだ明るい帰り道を、と二人で歩いていた。


「まさか『AMW研究会』でそんな大がかりな出し物をやるとは思わなかったな」


「そうだね~、あんまり派手な雰囲気の部活じゃなかったし。意外と言えば意外かも」


 隣のがうんうんとうなずく。


 ちなみに学校からだいぶ離れ周りに人もいないので、ひとなつこい方のモードになっている。


 動物の耳みたいなツインテールが夕焼けの中でぴょこぴょこと揺れていた。


「クイズ大会……正直ちょっと気後れはするけど、でもお姉ちゃんが参加したものなら、それをきっかけにして『白銀の星屑ニユイ・エトワーレ』の二つ名を継いだものなら、わたしも挑戦しないわけにはいかないもんね」


「ん、分かってる」


 らいさんのルートを辿たどって、らいさんにけんしうる立派な〝アキバ系〟レディになる。


 それはが何をしてでもげたい目標。


 これはそのための一歩だ。


 のために、できる限りの協力はしようと思う。


「だけど出題内容が『魔法少女ドジっ娘マホちゃん』からだっていうのは、ちょっとラッキーだったかも」


「それは確かにそうかもな」


 何でも『ぽろりもあるよ! 〝アキバ系〟大クイズ大会』の出題範囲はあらかじめ公示されていて、近年はそのシーズンに最も話題となっているアニメ──今期でいうところの『魔法少女ドジっ娘マホちゃん』──なのだという。


 基本的に知識が『マホちゃん』に偏っているにとっては、これは願ってもない話だ。


 最初に触れたコンテンツだっていうのと、今期の覇権となるだけあり魅力的なキャラやストーリーが心をアイアンクローのごとくがっちりとつかんだっていうのもあるんだろう。現状でが追っているのはほとんどが『マホちゃん』関連だ。それ以外はおそらく全体の一割にも満たない。


 でも、それでいいんじゃないかな。


 本来〝アキバ系〟っていうのは、そうやって一つのキャラなりコンテンツなりを好きになった結果、それらにはまりこんで沼に落ちるパターンが定石だから、の好きになり方は〝アキバ系〟として確かに正しいものなんだと思う。


 らいさんと同じような〝アキバ系〟マスターになるためにはまだまだ経験しないといけないことはたくさんあるだろうけど、ひとまず今はこれで間違ってないはずだ、うん。


「だけどこうやって〝アキバ系〟をちゃんと好きになれる日がくるなんて、思いもしなかったな~」


 と、が感慨深げに口にした。


「せんせーがいなかったら〝アキバ系〟ときちんと向き合うこともなかったかもしれないし、ほんとは初心者だってこともずっと〝秘密〟のままだったと思う。好きなものをちゃんと好きって言える人たちに引け目を感じながら、お姉ちゃんの辿たどった道を追うためだけに触れていくことになったんじゃないかって思う。だからせんせーにはほんとに感謝かな」


……」


「でもまだまだ〝アキバ系〟には知らないことがたくさんだし、またせんせーにびしばし特訓してもらわなきゃ」


 なぜだか楽しそうにが言う。


「ビシバシはともかくとして、できることなら助けになるから」


「うん、ありがと」


 そう言うとはちょこんと一歩前に踏み出した。


 そしてくるりと振り返ると、ゆうを背にしてにっこりと笑った。


「頼りにしてます、せんせ♪」


 その笑顔は甘えてくるいぬのようで……うーん、かわいすぎる……






 その言葉通り、その日から特訓が開始された。


 とはいってもここ最近はずっと『マホちゃん』一直線だっただ。


 やることといったら確認のために録画していたテレビシリーズをいっしょに見返したり、前シーズンのブルーレイを見たり、原作となっているライトノベルを精読したりするくらい。


 要するに、いつもの毎日だった。


 特筆すべきこととしては、二点ほど。




 一つは、前に話していた『マホちゃん』のブルーレイボックスの予約に行ったことだ。


「う、う~ん、こっちは描き下ろしおポスターで、あっちのお店がマウスパッドかぁ……どっちがいいんだろう……?」


「やっぱり、がどっちがほしいかじゃない?」


「どっちもほしい~!(即答)」


 誕生日プレゼントに某VRと某Switchを前にした子どもみたいな


「いや……そこはどっちかに絞らないと」


「分かってる、分かってるよ……でも選べないんだよぉ~」


「……」


 意外と優柔不断というか決められない系の女子だった。


 気持ちは分かるけどさ……


「ど、どっちも予約しちゃおうかな……ブタさんのお年玉貯金を崩せばきっと何とか……うふふ……(ふらふら)」


「ダ、ダメだって、二つもボックス、いらないでしょ……!」


「で、でも、おポスターはおに入りながらでもマホちゃんとピアニッシモちゃんが温かく見守ってくれるし、マウスパッドはマホちゃんの豊満な胸元が手首を優しく包んでくれるし……」


 特典サンプルを前にして時限爆弾の赤と青のどちらのコードを切るかの選択を迫られるがごとく悩むことおよそ一時間。


 結局マウスパッドはすでに家にあるという理由から、苦渋の選択でおポスターに決めたのだった。

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