*Ⅳ* 7/9
『わたしは慧にあやまらないといけません。
ひとつ、とてもおおきな隠しごとをしていたからです。
わたしはザイの部品でできています。
ただ信じてほしいのは、わたしにザイの記憶はないということです。
きがついたときにはグリペンとして人間をまもらなきゃとおもっていました。ハルカいわく、わたしたちには強力な人格
ほんとうはもっとはやくこのことをはなそうとおもっていました。
でも神社にいったとき、
きらわれたくなかったからです。
ただいつまでもうそはつけません。だからゆうきをふりしぼって手紙をかきました。わたしはザイからつくられました。でもわたしはアニマとしてがんばろうとしています。信じてください。
あしたもまた会いにきてくれることをいのって。──Gripen』
しばらく身動きできなかった。
握りしめた便せんがくしゃりと
……
確かに、彼女は人間じゃない。正体不明のテクノロジーを流用して人の形にこねあげた、アンコントローラブルな戦闘人形。少女の姿をした兵器だ。
だがその内面はどうだろう。
異常な出自に戸惑い、周囲の
そんな彼女を……自分は突き放した。説明も聞くことなく一方的に拒絶した。
一体どれほど傷ついたことか。しかも自分はそのあと基地を訪れることなく無視を決めこんでいる。
自分が彼女の立場ならどう思う? ああやっぱりだめだったんだ、思い切って手紙を書いたけど受け入れてもらえなかった。頑張っても
違う。事実はただ自分が気持ちの整理をつけられなかっただけだ。問題から目を
時計を見る。時刻は午前十一時十分。
フライトまであと五十分。
(行こう)
決断は思ったよりスムーズだった。手早く着替えて自転車のキーを取り上げる。
とにかく一度話さなければ。
でもおまえのことは嫌いじゃない。
言葉にしてしまえばたった二つのセンテンス。だがそれを伝える時間はあまりにも残り少なだった。
ジャケットを羽織って部屋から出る。この三日間の
あとから考えればまず電話をすべきだったのかもしれない。
もともと折り返しを求められていたのだ。今からでも
実際には正門で止められた。しかもかなり長時間留め置かれた。
別に不審人物と見なされたわけではない。単純に
全力
十一時五十分。
ディスプレイの
「来たか」
「あの……すみません、
取るものも取りあえず謝罪する。八代通は「構わん」と首を振った。
「事情を
「見たのか、
「はい……
「で、文面にほだされてほいほい出てきたってわけか。意外とちょろいな。ならもっと早くお涙ちょうだいで説得すればよかった」
「……」
だから言い方というものがあるだろうに。
「あれがあいつの本心だ。プログラムでもザイの記憶でもない、あいつ自身の言葉だ。そこは、そこだけは理解してやってくれ」
「ええ」
遅まきながら気づいた。彼女が普通の心を持っていることに、人間と同じ感情を宿していることに。だからこそ自分はここへ来たのだ。
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