*Ⅱ* 2/4
格納庫の端に簡易な打ち合わせスペースが設けられていた。長机と
「悪いな、茶は出ない。小銭があるなら缶ジュースくらい買いにいかせるが」
「いえ……」
自動販売機があるのか? と考えかけて首を振る。いや、いや今はそれどころじゃない。
「
机を
男は「ふん」と鼻を鳴らした。
「無事だよ。適当な理由を話して警衛所で待機してもらってる。君のことを
「そんなんじゃ」
ないと言いかけて口ごもる。男は興味なさげにこちらを見ていたが、ややあって座り直した。
「とりあえず自己紹介しておこうか。防衛省技術研究本部、特別技術研究室室長、
防衛……省?
「自衛隊の人なんですか」
「技官だがね。知識労働中心で荒事は
なんと返してよいか分からず周囲を見渡した。広い格納庫、整備用の重機、そして外に見える滑走路。
「じゃあ……ここは」
「ああ、
「な、なんで」
「そこまで知っているのかって? ここは軍事基地だぜ。不審者はきちんと監視カメラでチェックされている。必要とあらば音声だって取得可能だ。よかったなぁキスシーンとか始めないで。格好の
「……」
「まぁそれはさておき」
八代通は口調を切り替えた。
「状況を説明しておこう。さっきも言った通り、
「数が多いから」
「他には?」
「連中の方が優秀な戦闘機を持っている」
「三十点といったところだな」
「いいか、あいつらの武器は三つある。一つは
「ハイマ……イーピー……?」
「HiMATとEPCMだよ。Highly Maneuverable Aircraft TechnologyとElectronic and Perceptual Counter Measures。ふん、英語は苦手か? じゃあ日本語に訳してやろう。まずHiMAT、これは高機動航空技術の略だ。もともとアメリカの実験機で使われてた用語でな、有人じゃ実現できない高機動性能のことを指している。ザイの連中の飛び方を見たことがあるな?」
「……ええ」
忘れるはずもない。カラマイから
「一般に戦闘機パイロットの耐えられる荷重は9Gと言われている。自分の体重の九倍だな。ザイはそれを軽々と上回り急加速・急旋回を決めてくる。ドッグファイトなどとんでもない。ミサイルを照準するのも難しいくらいだ。そんな相手が二機・三機と連携してきたら……分かるだろう? 普通の戦闘機じゃ対抗しようがない」
「……」
「仮に苦労して
「電子……感覚?」
「一種の
「そんな!」
予期せぬ敗北宣言に
だが八代通は薄く笑った。
「現用の自衛隊機でなら、の話だ」
不敵な声音。
「我々も手をこまねいていたわけではない。連中の機体を解析し対抗手段を模索してきた。
(ドー……ター)
ひどく不可思議な
「といっても新しい戦闘機を作るわけじゃない。アニマと呼ばれる新型の自動操縦機構を既存の機体に装備、チューニングする。ところがこれがなかなかの難物でな、ほとんどうまくいかない。何機、
「はぁ」
「こう見えて
いつの間にかただの自慢になっている。よく分からず相づちを打っていると、
「そんな俺でもどうにも始末に困るアニマがあってな。現用機はおろか退役機まで試してもうまくいかない。
「……いえ」
「最近の若い者は昭和ガメラも見てないのか、
!
意識が反応した。はっと顔を上げつぶやく。
「グリペン」
「ほぉ、分かるのか。なら話は早い。そうさっき目撃した機体だ。そして……
なっ!
今度ばかりは
八代通は片目をすがめた。
「俺達は君を探していたんだよ、王子様」
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