*Ⅱ* 1/4
鉄と油の
車から降ろされてどのくらいたっただろう。おそらく十分か十五分くらいのはずだ。その間、一言も声をかけられていない。かといって放置されているわけでないのは背後に人の気配があることで分かる。背中に筒状の物体が押しつけられていた。冷たく重い鉄の感触。
は……ぁ。
「いいぞ、取れ」
不意に低い声が
頭を
サーチライト……いや、ヘッドライトか? 大型のオフロード車がこちらを照らしている。その正面に人影が一つ立っていた。逆光で細部はよく分からない。が、ひどく横幅が広いのは見て取れる。かなりの肥満体だった。
明華は。
「さて」
「単刀直入に
「は?」
「何を探っていた? どこまで予備知識を持たされている?」
「な、何を」
言われているのか。わけが分からない。ただとんでもない
ガチャリと金属音が響いた。銃の撃鉄めいた音。
「とっとと
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
必死で制止した。
「な、何かの間違いです。
「ただの散歩、だと?」
男は
「言い訳にしてもセンスがないな。最近の
「ちょ、諜報機関?」
「いいからどこの所属か言え。モサドかFSBか、それとも雇い主さえ知らされてないチンピラか」
「だから!」
「あと五秒だ」
「!?」
ゆっくりと親指が折られる。
「四秒後に引き金を引く。これは
「お、俺は」
「もう一度
そんなものいない、と答えても相手は聞く耳を持たないだろう。かといって
残り三本。
二本。
一本。
「まっ……!」
男の口が開く。その声が死刑宣告を伝えようとした時だった。
背後で光が
「ふん」
ただ一人肥満体の男だけが
「なんだ、やっぱり動けるんじゃないか、この
その言葉は
恐る恐る振り返る。
巨大な
あいつだ。
心臓が
赤い
正体不明のデルタ
再びモーター音が
男は肩をすくめた。
「分かった分かった。悪ふざけはこの程度にしておく。おい、とっとと片づけるぞ。姫がお怒りだ」
はい、あーい、と返事が響いてくる。
電気がついた。広い……格納庫だ。
作業着姿の男女が荷物をオフロード車に載せていく。何人かは赤い飛行機に取りつきチェックを始めていた。銃の
(マジか)
これだけ大騒ぎしてただのお
だとして一体なんのために、何を目的として行ったのか、意図が分からない。あの赤い戦闘機が普通に存在している状況も混乱を
「おい」
呼びかけられて振り向く。照明の下、肥満体の中年男性がこちらを見下ろしていた。目が細く鼻の低い、醜男だ。白衣のポケットに手を入れ
男は小さく
「君、少し時間あるか。付き合え、色々話したいことがある」
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