*Ⅰ* 5/5
「さ、帰ろう。話は家に戻ってゆっくり聞かせてもらうから」
「ちょ、ちょっと待てよ」
「早く」
体勢を崩しかけ、危ういところで踏みとどまった。
「いい加減にしろ!」
思わず怒鳴ってしまった。彼女の手を払い
「なんなんだよ一体、いくらうちの親に頼まれたからってそこまで意固地になる話か?
「約束とか、そんなの関係ない!」
予想外の答えが返ってきた。
彼女の目は
「あたし、今この国で
あ……。
頭を
考えてみれば当然の話だ。十六歳の少女がただ一人、故郷も生活環境も破壊され異国に投げ出された。不安でたまらないだろう。家族の身を案じナーバスにもなっているはずだ。なのにそんなことおくびにも出さず
「
どうしてよいか分からず立ち尽くす。まさか泣かせてしまうとは思わなかった。迷った末、振り払った手をもう一度取ろうとする。その時。
「おい! そこで何してるんだ!」
マグライトの光が真正面から浴びせられる。明華が悲鳴を上げ飛びついてきた。
声の主はフェンスの内側にいた。迷彩服の男性だ。後ろに大型の装輪車が
「あ、いや……えっと」
しどろもどろになっていると男性は
「なんだ子供か。いちゃつくなら別のところにしろ」
「え」
かっと頬が熱くなる。いや、違う、これは違うんです。
だが否定する間もなく男性は手を振った。
「早く帰れ。でないと警察に言って補導してもらうぞ」
面倒そうに告げて車に戻る。マグライトの光をもう一度こちらに向けた。
「ほら、行った行った!」
「あ、はい!」
えー……っと。
どちらからともなく顔を見合わせた。
顔が近い。相手の
「な、なんか
「そ、そうだね」
「悪い、
「け、
「いや、
「慧の方が」
……。
「とりあえず帰るか」
気まずさを
無言のまま自転車に戻りスタンドを
(女の子、なんだよな)
「あ、あのさ明華」
なんとか元の調子を取り戻そうと呼びかけた時だった。
目の前に黒一色のバンが飛びこんできた。
は!?
激しいブレーキ音を立ててバンが
「な、何!?」
「……!」
悲鳴を上げる間もない。両腕を
車が動き出す。現れた時と同じように
振動が
ただ一つだけはっきりしていることがある。
自分達は
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