*Ⅳ* 1/9
『バッテリーオン、APUスタート、操縦系統……チェック、レディオ……チェック、各種電子機器……セッティング
スピーカーからグリペンの声が
周囲の空気はぴんと張り詰めていた。作業着姿の男女がモニタを注視している。淡い照明の
画面の一つにコクピット内の少女が映し出されている。長い
『エンジンスタート』
別モニタでCG製の機体が
グリペンがカメラに視線を送ってきた。
『行ける』
「よし、飛べ」
『V2(安全離陸速度)』
機体の背景が空の青に満たされる。離陸成功、モニタルーム内の空気がほっと
「順調ですね」
八代通は「ふん」と鼻を鳴らした。
「当たり前だ。いくらなんでもシミュレータの段階で失敗されたら困る」
「でも平均
「まぁな」
いつになく素直な反応が返ってくる。実際拍子抜けするほど好調に実験は進んでいた。
八代通がマイクを取り上げる。
「よし、シナリオ2Aに移る。グリペン、飛行モードを
『了解、飛行モードを
「状況開始」
状況開始とオペレータが復唱する。
戦域マップに激しいノイズが生じた。グリペンを取り囲むように複数の光点が出現する。
『
『ザイ確認、アンノウン01から03の呼称をボギーに変更。FOX2、ドーター誘導補正開始』
「ボギー01から03健在」
オペレータの声が無情に響く。グリペンは顔を
『再演算、EPCM影響度を修正。ターゲットロックオン』
FOX2。
再度ミサイルが放たれる。だが今度も当たらない。敵編隊は複雑に軌道を
(なんで)
まさか意識障害? と思った
「おいこらへたくそ。何をやってる。とっとと
『無理』
『このシミュレータ、全然ドーターと感じが違う。こんなのじゃまともに飛べない』
「予算がないんだ。
『貧乏人、ケチハルカ』
「なんだとポンコツ娘」
人目もはばからず
スタッフが
そのあと二度ほど難易度の調整を行ってようやくグリペンはミッションを
「データチェックするぞ、三十分後にシナリオ3Bを実施。手の
声を張り上げモニタルームを横切っていく。ガラス向こうでシミュレータの背が開いた。グリペンが
……
殺気だったモニタルームを出てグリペンのもとに向かった。極力平静を
彼女は
「不本意」
「そ、そうか」
「こんなものを私の実力と思われたら困る」
「……」
シミュレータの中をのぞきこむ。球状の
「すごい設備じゃないか、何が気に入らないんだ?」
「操縦系統が全然違う、反応が鈍い、外部刺激のフィードバックがない」
「……えーと」
もう一度筐体内を見つめる。確かに言われてみれば
「おまえ、どうやって操縦してたんだ?」
疑問をぶつけるとグリペンは小走りに近づいてきた。
「あれ」
座席の左右にアクリル板が埋めこまれている。
「
「繋げる?」
「ニューラルネットワークを機体の末端まで拡張する」
「……」
専門用語はよく分からない。が、つまり。
「考えるだけで飛行機を動かせるってことか?」
「ちょっと違う。別に考えなくてもいい。人間が自分の腕や足を動かすのと同じ。右旋回したければラダーが動作するし減速したければエンジン出力が下がる」
「すごい話だな」
想像を絶する。人類の科学はいつの間にそこまで進歩していたのか。いや、今の話こそ
ともあれようやく不調の原因が分かった。電卓の計算に慣れていた文明人がいきなりそろばんを渡され戸惑っている感じか。まぁ「なんとか
ん?
あれ? っていうことはつまり。
「おまえ、普通に飛行機操縦させたら意外に
「……!」
「
「驚嘆……って」
「想像以上の無知に
彼女はシミュレータを指さした。
「そこまで言うなら実際に操縦してみるべき。いかにこのシミュレータが欠陥品か理解できるはず」
「いや、実際に操縦って」
許されるわけないだろう、自分みたいな外野がと思ったのだが。
「別に構わんよ」
作業中のスタッフがのんびりと口を
「どのみち一回セッティングリセットするしな。二、三回フライトする時間はあるだろう。あんた、セスナは飛ばしたことあるんだろう?」
「……」
また個人情報が
「
「いや、それなんか使い方違うし」
とはいえ軍用シミュレータを操作できる機会など
「じゃあお言葉に甘えて」
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