*Ⅲ* 11/11
肩越しに振り返る。
グリペンが倒れていた。
……!?
ジュースの缶を持ったままうつぶせに伏せている。流れ出した液体が砂浜に黒い
「心配ない、眠っているだけだ」
駆け寄ろうとした
階段の上に太り
「
「『さん』をつけろよ王子様、一応年長者だぜ」
さして気にした風もなく言い、八代通は
「おい、あんたら」
わけが分からず制止すると八代通が片手を上げた。
「ここから先は技術屋の領分だ。
「……」
息を詰めて
「座れよ」
口角を
「昨日からの件、どういうつもりですか」
「どうというと」
「ロクな説明もなく俺達二人をほっぽりだして。あいつをきちんと飛べるようにする、そういう話だったでしょう? だからこそ俺も協力するって言ったのに」
「そうだな」
「ならなんで」
語気を強めると八代通は片手で
「吸うか?」
「未成年ですから」
「来年にはザイが世界を滅ぼしているかもしれないんだぜ? そんな状況で法律や健康とか気にしても仕方ないだろう」
「……」
「まぁいい」
「三時間だ」
「は?」
「グリペンの平均
使い物にならないだろう?
沈黙する
「今日のあいつはどうだ。なんと十時間以上連続で
「……
「そう何もしていない。駅前商店街や海岸など
見ていたのか、まぁだからこそ
「で? 理由は分かったんですか。どうせあいつの状態も遠くで監視してたんでしょう」
挑発的な口調に、だが八代通は首を振った。
「いいや分からん。さっぱり分からん」
「……」
「まぁ仮説はいくらでも立てられるがな。たとえば君の声に特殊なパルスが含まれていて、あいつを安定させている。または君の顔に特殊な色彩パターンがあって覚醒を
「本気で言ってるんですか」
さすがに
「さぁね。だが検証の余地はあると思っている。君の顔写真をコクピットに置いたりボイスレコーダーで君の声を流したり、そのくらいなら大した手間じゃないからな」
「……ぞっとしない光景ですね」
操縦席に
正直気持ち悪い。
八代通は
「どちらにせよあまり時間がない。手段を選んでられる余裕もないんだ。今日テストフライトの日程が確定した」
「テストフライト?」
「あいつの運用打ち切りを判断する試験飛行さ。丁度一週間後、六月二十一日の水曜日に実施される。そこでうまく飛べなければ今度こそ
「そんなに早く!?」
予想外のスピードだった。対ザイ戦用の秘密兵器がかくもあっさり廃棄されてしまうとは。ありえない、人類はそれほど余裕のある戦闘をしているわけでもないだろうに。
「精一杯
「……」
「実際効率悪いことは確かだ。
「でも!」
たまりかねて声を上げる。
でも。
「あいつがいなかったら……俺達は死んでました」
掛け値なしの真実。あの
「ふん」
「なら
「……もう少し言い方ってものがあると思いますが」
「なら言い換えようか、
あまりにも空々しい言葉だった。
肩の力が抜ける。はぁっと一呼吸、降参して首をすくめた。
「分かった。分かりましたよ。従います。乗りかかった船ですし。ちなみに前から疑問だったんですけどなんで王子様なんです? 全然柄じゃないんですけど」
八代通は「決まってるだろう」とにやけた。
「王子様のキスで姫は目覚める。古今東西お
どうやら自分達は最初から
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