*Ⅲ* 4/11
「プロペラ機?」
迷彩色の
「昔の
「エンタイ……何?」
「空港を攻撃された時に飛行機を守る施設」
「はぁ」
で、なぜこんなところに?
振り返って目を見開く。グリペンの姿がない。
「おい、グリペン」
「何してるんだよ」
いい加減振り回されすぎて頭がくらくらしてきた。
「秘密基地」
「は?」
「お気に入りの場所。ベッドみたい」
「ベッド?」
「屋根がついたやつ、高級品」
どういうことだ、混乱しかけてふっとプロペラ機の姿をとらえる。ああ、そうか。なるほど、人間サイズなら意味不明だが飛行機の立場なら確かに屋根付き寝所だ。
「お姫様とかが寝る
「そう」
ひどく
「いいのかよ、ここ一応自衛隊の敷地だろう? 勝手に私物化して」
「まだばれてない」
「ばれなきゃいいのか!?」
「室長は『
「室長って、
こくりとうなずく。なんてこった、一番情操教育を任せちゃいけない相手に
グリペンはビー玉を陽光にかざした。
「多分室長はここのことを知ってる。これをくれたのも室長だし」
「秘密基地の材料にってか?」
「うん」
灰色の目がすがめられる。
「ぶっきらぼうだけど時々
「恩返し」
「不調を直して自衛隊と一緒に戦う」
「
小さな手がビニールシートを
観念して中に
少女の橫に腰を下ろす。コンクリートの冷気が
目を見張った。
開口部で外の景色が切り取られていた。木々の緑に陽光が映えている。木立の間から青い空と白い雲がのぞいていた。
絵だ。
「落ち着く」
とグリペンがつぶやいた。
──
歌声。
聞き慣れない発音だった。思わず「どこの言葉だ?」と
「分からない。初期構築時に色々テキストを転送されたからその中にあったのかも」
「初期構築……転送?」
「ゼロベースで知識を形成すると時間がかかるから、ネット等の公開データを読みこんで一気に一般常識を構築する。テキストを分割・意味解析・階層化して」
よく分からない。人間のように教育すると面倒なため速成で機械学習されたということか。こういう話を聞くとやはり少女が人外の存在に思えてくる。作り物の人格、プログラムされた知性。外見が外見なだけに、いまいちまだ現実味が薄いが。
「あ、そういえば」
ふと思い出した。
「おまえ、
「Nova Era」
「そう、それ」
グリペンは口元に指を当てた。
「覚えてないけど意味は分かる。『新しい時代』という意味」
「新しい……時代」
当時の状況を思い返すもやはりぴんとこない。キスの話と同じ、混乱して口走っただけなのか。
「じゃあそれもテキストの中にあったわけだ」
何気ない感想にだがグリペンは「違う」と即答した。
「?」
「違う……元からあった」
「元?」
灰色の目がすぼまる。心の
「どこで覚えたか分からないけど、最初から」
何を言っているのか、理解できずにいると不意に着信音が鳴り
「はい」
事務的な声。表情が消え
「ごめんなさい、検査の時間」
「え?」
「戻らないと。正門まで送っていく」
なんだ、今日はここまでってことか?
到着して二時間もたっていない。受付は九時前だから、おそらくまだ十一時にもなっていないだろう。
結局自分は何をしに来たのか。食堂でお茶を飲み散歩して第二次大戦の史跡で休憩した。このやりとりがグリペンの回復にどう
「また明日」
こちらの感情など
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