*Ⅲ* 3/11
五分ほどで食事をすませ食堂から出た。
十字路を渡り基地東側に向かう。途中売店や資料館のようなものを目撃するも立ち寄ることなく通過した。ちなみにカーキ色のペンションめいた建物もあり、何かと思ったら隊員用居酒屋だった。食堂の存在といい、生活に必要な施設はあらかた
歩いているうちに気づいたが周囲の視線がほとんど感じられなかった。人通りはある。だがあえてこちらを注視したりしない。正門とは様子がかなり異なっていた。未成年の男女が私服姿で基地を散歩、目立たないわけはないと思ったが。
……いや。
避けられているのか。
グリペンに近づかないよう、目線が合わないようにしている。
どういうことだろう。軍事機密ということで接触が禁止されているのか。事故が起きないよう距離を置かれているのか。
(そういう様子でもないよな)
道行く人々の顔は警戒に満ちていた。食堂の隊員と同じだ。強い緊張が表情にうかがえる。人によってはあからさまに視線を
……
なぜだ。ザイ対策のため人類にもたらされた希望、
「あれ」
グリペンが立ち止まった。伸ばした手が左手の建物を指している。
「3格」
「サンカク?」
「第3格納庫、昨日あなたが
「げっ」
脳裏に昨晩の恐怖が
「大丈夫、もう一度同じことがあっても私が助けるから」
「いや、もう一度とかいらないし」
というか助けるってあの機関砲でか? ぶっ放したら自分もただじゃすまないように思うが。
グリペンの指が左に移動した。
「橫が2格、その
「結構規模でかいんだな」
「日本海側の基地で戦闘機が配備されてるのはここだけだから。大陸沿岸がザイの手に落ちたら
「そうなのか?」
「今はまだ
「……」
恐ろしい事実をさらりと突きつけてくる。
「次、こっち」
格納庫の
「滑走路は一本、離着陸の方向で
「一本? だってここ、確か民間機も下りてくるんだろう」
「一緒に使ってる」
「緊急発進とかあったら?」
「ゆずりあい」
……。
最前線になるかもしれない基地が軍民共用とか、非常時に大丈夫なのか?
「あれは?」
「アラートハンガー」
短く回答された。
「スクランブル機の待機場所。五分待機が二つと三十分待機が二つ、それぞれ定められた時間で発進準備を整える」
「へぇ、じゃああの中に戦闘機がいるのか?」
「そう」
「ふぅん」
見たいなぁと言いかけて口ごもる。あそこの機体が視認できるのはスクランブル時だけだ。非常事態を好んで待つ
「次」
言ってグリペンが歩き出す。ワンピースのリボンが風になびいた。
「え? あ、もう?」
気づいた時にはすたすたと歩き去っている。ひどく
「なぁ、今度はどこだ」
「……」
「なぁって」
返事はない。黙々と広大なエプロンを歩いていく。誘導路から構内道路に戻り体育施設の前に出た。そのまま数分ほど行くと周囲の建造物がまばらになってきた。駐車場の先、松林に道が続いている。うっそうと茂る枝葉がアスファルトに濃い影を落としていた。
まさかあそこに行くつもりか。
「おい、おまえ一体」
さすがに薄気味悪くなり声をかけた、
「ここ」とグリペンが道路
かまぼこ形のコンクリートアーチが現れていた。古びた造りで表面がところどころ黒ずんでいる。正面には台形の開口部が設けられ中が確認できた。狭いアーチの下にあったのは──
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