*Ⅲ* 2/11
途中自転車を駐輪場に
学食のような空間だった。プランターの向こうに長机が整列している。左手に
「席、好きなところで」
長机を指し示される。時間帯のせいか店内は
「ここでいいか?」
「うん」とグリペンはうなずいた。
「ご飯とお茶取ってくる」
歩き始めて、だがすぐに立ち止まる。肩越しに振り返り。
「お茶以外がいい?」
「ん?」
ひどく真剣な表情。
「百三十円までなら出せる。それを超えたら
「い、いやいいよお茶で。別におごってもらおうとか思ってないし」
「そう」
ややほっとした様子なのは気のせいだろうか。金欠? というかお
グリペンはワンピースの
「ただいま」
「お茶は?」
「!」
即座に回れ右して駆けていく。給湯スペースからお茶と水を運んできてもう一度。
「ただいま」
「
「……!」
戻ってきた彼女は息を切らせていた。片手に食器を
「……おかえり」
そのまま着席したが、さすがにすぐ食べる気にはなれないのだろう。無言で呼吸を整えている。たまりかねて「おまえさ」と呼びかけた。
「ひょっとして結構おっちょこちょいとか?」
「そんなことはない、大きな
「だって全然兵器っぽくないぞ。
「それ以上言ったら怒る」
「……」
怒る、怒られるのか。
彼女は視線を振り切り
改めて少女を観察する。
小柄な
思い悩んでいるとグリペンが箸を止めた。
「少し……緊張してる」
「え?」
「普段通りにできない理由。外の人と話すの初めてだから」
「初めてなのか?」
「うん」とうなずいた。
「基本的にハンガーとラボを行き来してるだけだから、話しかけてくれるのはメンテナンスのスタッフだけ。空に出たらもうずっと一人だし」
「……」
「だから戸惑ってるだけ。普段はもっとちゃんとできる」
意外と意地っ張りだった。苦笑が
「
グリペンが顔を上げる。目線を
「
「
うわごとのようにつぶやく。「そう、慧だった」
? だった?
「なんて呼ぶのが正しいんだ?
「グリペン」
はっきりと言い切られた。
「JAS39グリペン、それ以外の何者でもない。人間が自分の脳と
兵器……。
「だからグリペンでいい。正確を期したいなら
「いや、いやいいよ。グリペンな」
正直呼びづらいが無味乾燥な数字を教えられるよりマシだ。
「じゃあグリペン、本題に入るけどこのあとどうするつもりだ? 食事をして次の予定は?」
きょとんと首を
「ノープランかよ」
「あなたの相手をする」
「だから具体的にどうするんだ?」
「慧は何をしたい?」
質問に質問で返された。ええい面倒くさいな。トランプしたいと言えば「はい」と答えるのか? 答えそうだが。
「普段は何をしてるんだ?」
「普段?」
「自由時間とかあるだろう? 基地内でどうしてるんだ」
グリペンはしばらく考えた後。
「散歩」
「は?」
「ぶらぶらしてる。あちこち、探検」
「自由な兵器だな」
「あとは昼寝」
「……おまえ本当にあの時の機体か?」
心の底から疑いたくなる。
まぁ、何も問題ない相手ならそもそも自分に声はかからなかったわけで。
「了解、分かった」
景気よくお茶をあおる。
「じゃあ一緒に散歩しよう。おまえがいつも歩いてるところに連れてってくれ」
「それでいいの?」
「自衛隊基地を自由に歩ける機会なんて
「了解、じゃあ急いで食べる」
「落ち着いてでいいよ」
プレートにかぶりつくグリペンから視線を外すと、
空気が固まった。離れていても明確な緊張が伝わってくる。……緊張? いや違う。これはもっとなんというか。
恐怖。
脳裏に浮かんだ言葉はひどく現実味のないものだった。
なんだ、恐怖? 一体何に対し
男性隊員達の視線を追う。そこにはペールピンクの髪の少女がいた。
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