*Ⅳ* 8/9
「お涙ちょうだいついでにもう一つ聞かせてやろうか。あいつの
「素体?」
ドーターのベースとなった機体のことか。評価用に自衛隊で購入したグリペンと聞いていたが。
「シリアルナンバー492803、D型ダービッドの後期モデルだな。今輸出されているのはE/F型だから
「それは」
絶句する。想像もつかない、あまりに
「結果的に反政府運動は泥沼化、
「……」
八代通はやや決まり悪げに視線を
「あまり真に受けるなよ、半分は
どうとも返すことができず口ごもる。彼女の内面を知れば知るほど
「テストはどうなってるんですか」
八代通が
『
無線越しに少女の声が
『BARBIE01、ランウェイ06、クリアード・フォー・テイクオフ』
『ラジャー・BARBIE01、ランウェイ06、クリアード・フォー・テイクオフ』
離陸準備完了。
機体の速度が上がる。エレボンとカナードが上向き、つられるように機首が持ち上がった。主脚が地上から離れて
飛んだ。
「少し強引だが無理矢理
実戦じゃ使い物にならんがな、と
確かに強引極まりない手法だった。とはいえなんとかなりそうというのは
八代通の指がモニタ上の地図を示した。
「テストコースは
「普通にやっていれば」
「さすがにこれ以上お
テストフライトの内容について上層部とかけ合ってくれたのか。感心する一方でなぜそこまでという疑問が浮かぶ。まさか八代通のような男が感傷や
「前にも聞きましたけど、『単純に費用対効果だけ考えるなら、あいつは見捨てるべき』なんでしょう? なんでそんなに色々気にかけてやるんですか。
「俺は分からないことがあるのが嫌いなんだ」
「あいつだけがなぜ不調に
予想外に気高い姿勢だった。技術者としての
「ポイントアルファ通過」
オペレータの声に注意を引き戻される。地図上を三角形のシンボルが移動していた。表示はBARBIE01、グリペンのコールサインだ。現在地は
「バイタルチェック、心拍・呼吸・血圧・体温ともに正常。EGGパターンも許容レンジ内」
「
「よーし、いいぞ。悪くない」
「BARBIE01、落ち着いて行け。
『分かってる』
「もうすぐ一つ目のターゲットが確認できるはずだ。まずは射撃ミッション、いいな」
『了解、一撃で決める』
交信終了。赤い機体がバンクした。
八代通は舌打ちした。
「
確かにいつもより性急な感じがした。プレッシャーが彼女の心理に微妙な変化を与えているのか。口調に余裕がない。
「あの……
悩んだ末の提案に、だが八代通は首を振った。
「悪いが無理だ。今日の無線は関係各所に伝わってる。民間人を立ち会わせていると知れたらまずい」
「そう……ですか」
見守るしかないということか。歯がみして視線を戻す。オペレータが声の調子を上げた。
「BARBIE01、ターゲット01に接近します。接触まであと十秒」
いつの間にか地図上に黄色のシンボルが表示されていた。△を○で囲ったようなマーク。明滅しながら徐々にグリペンへ近づいてくる。
「七、六、五、四」
コクピットビューの画面、進行方向のカメラ映像に黒点が現れていた。青い空にぽつりと一つ、それがものすごい勢いで大きくなる。バリバリと空気を切り
『
すごい、
八代通は
「次は
『了解、ターゲット02を優先目標に登録、接触まであと……三十秒』
再び地図上に光点が生まれる。今度は高度差があった。スロットルを開き上昇、陽光がカメラにまばゆいハレーションを生み出した。黒点が見えロックオン、グリペンの声が『FOX2(発射)』と告げかけた時だった。
けたたましいベルの音が無線に割りこんできた。
室内がざわめく。スタッフが手元のコンソールをのぞきこんだ。飛び交う指示と確認の声。何ごとか、硬直する
『オールステイション、
!?
「スクランブル?」
予想だにせぬ単語だった。
緊急発進ということか? 一体なぜ、何に対して。
『TYLER01、ベクター030・クライムエンジェルス25・バイバスター、コンタクト・エブリゲート・チャンネル7』
別カメラがアラートハンガーの様子を映した。開いた
巨大な
「何が」
「心配するな。ロシア機だろう。よくあることだ」
「よくある……ことなんですか?」
「
そうなのか。なんだよ人騒がせな。今日は大切な日なんだ。余計な
「とはいえ」と八代通が付け足す。
「テスト空域に接近されると
ディスプレイの地図が切り替わる。大陸沿岸を含んだ広域図が映し出された。
八代通が無線に語りかける。
「BARBIE01、ベクター010にアンノウン。スクランブル機が対応に向かっているが近づいてくるようならテストを切り上げて帰還しろ。ロシア人におまえの姿を見せてやる必要はない」
『了解、テストは続行?』
「状況に注意しながら継続しろ」
『分かった』
交信が終了する。重ねるように男性の声が『ターゲット
『小型機だ。Su─27か? ……いや違う、見たこともない機種だ。鏡みたいに光って……
「TYLER01、02、ロスト!」
悲鳴のような声が上がった。身の毛がよだつ。恐怖の記憶が
オペレータがヘッドセットをつかみ振り返った。
「ザイ確認! 制空戦タイプ、機数一!」
「
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