*Ⅴ* 7/9
天井が揺れている。
プレハブ造りの執務棟は甲高い
モニタルームはひどい有様になっていた。ラックの中身がこぼれ、ディスプレイのいくつかは傾いている。額を
直前の報告を思い出す。新たな敵編隊が接近と言っていたか、では攻撃されたのか? グリペンは、
「被害状況、報告!」
張りのある声が
「直撃したらこんなプレハブ、
室内の空気が引きしまった。オペレータがインカムをつけ直す。攻撃前の
八代通が
「すまんがこれ以上相手している余裕もなさそうだ。とっととグリペンを連れていけ。正門には連絡しておく」
「いいんですか」
「最善手だ。分かってるだろう」
話は終わりだとばかりに歩き出す。瞬間。
「私、飛ぶ」
澄んだ声が聞こえた。
「何を言っているか分かってるのか?」
八代通の目が細まった。
「上がれば間違いなく死ぬんだ。片道飛行どころか離陸直後に
「死にたくは……ない」
わずかに白い
「でも私の存在意義は人間を守ることだから。今救える命があるならそのために全力を尽くしたい。あとの一億のために今の何十万を捨てるとかは考えられない」
それに、と彼女は続けた。小さく顔を伏せ。
「この町には
え……。
胸を突かれた。自分との思い出? そんなもののために町を守ろうとしているのか。わずか二週間かそこらの話だぞ。商店街や神社など思いつきのスポットを回っただけだ。なのにまるで宝石のようにその記憶を扱っている。
(……ああ)
ああ
「だがな」
「
「何?」
「俺が近くにいる限りこいつは無事なんでしょう? だったら一緒に飛べばいい。座席の後ろにでも押しこんでもらってグリペンの意識を安定させる。生還の可能性はずっと高まるはずです」
虚を突かれたように
「
「それでも……ギリギリまでこいつの戦闘力は保てます」
少なくともドッグファイトが始まるまでは。
最悪二人
それに
(試してみる価値はある)
ペールピンクの髪の少女が
「
「言っただろう、おまえを一人で放り出したりしないって」
小さな手を握る。彼女の意志が、思いが体温とともに流れこんできた。それ以上の言葉はもう必要ない。二人揃って八代通を見つめた。
しばらくして舌打ちの音が
「どいつもこいつも……死にたがりだな」
「だが上等だ。俺も
「くどいですよ」
八代通は薄く笑った。肩越しに振り返り声を張り上げる。
「おい、グリペンを出すぞ! 外、行けそうか」
「だめです、敵は滑走路破壊用と思われる特殊爆弾を使用。広い範囲にクレーターが生じています。現在ヘリ以外の離着陸は一切不可能!」
な……!
一気に気持ちが冷える。滑走路がやられた? 飛び立てないということか。であればどれだけグリペンが安定していても意味がない。
だが
「まぁ心配するな」
肉づきのよい
「
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