*Ⅲ* 6/11
チャイムが鳴った。
ポーンと短く一回、続けて二回電子音が
「ん……」
まぶたをこすり起き上がった。窓から
ポーン。
再びチャイムが
「はーい!」
しつこいな。
大声を上げ玄関に。サンダルに乗って引き戸を開いた。
「どちらさ──ま」
小柄な少女が
「グリ……ペン」
「おはよう、
「なんでここにいる」
「送ってもらった」
「誰に?」
「
「ギホン」
「技術研究本部」
「どうしろっていうんだよ!」
叫び声は
半眼で見下ろして
「慧、疲れてる?」
「理由は分かるか」
「さぁ」
「だよな、おまえはそうだよな」
彼女に怒っても仕方ない。とりあえず何がどうなっているのか
「で?
「……」
それも分からないのか。ひどい脱力感に
「ハルカからは
「ハルカ?」
「室長、
そんな
「えーと……その、言うことを聞けっていうのは」
「好きなようにさせてやれって」
「は?」
「何されても抵抗するなって。
「……!?」
あ、あの
視線を感じた。
近所の住人が顔を出している。いずれも昼間の星を見たような表情で固まっていた。好奇に満ちた視線の先にあるのは。
──輝くようなペールピンクの髪。
……っ!
グリペンの手を引き家に入る。いかん、いかん見られた。狭い町だからすぐ
「入っていいの?」
グリペンが
「お茶くらい出すよ。昨日はこっちがもてなしてもらったしな」
「手伝う」
「いいから、ゆっくりしてろ」
居間に入れて座らせる。
何見てるんだ?
のぞきこんで、はっと息を
写りこんだ景色は飛行場だ。白塗りのセスナ172Rが駐機している。その前に
「これ、
グリペンの問いかけに「ああ」と答える。
「
「母親」
久しぶりに出した単語はひどく乾いていた。
「二人で中国の空を飛んだ時の写真だよ。十歳くらいかな、父親を後部座席に乗せて家族三人で飛んだんだ。途中
「慧が?」
大きな目が丸くなる。
「飛んだの? 自分で空を?」
「こう見えても飛行時間だけなら百超えてるんだぜ。ま、もちろんインストラクターが橫についてだけど」
「すごい」
「すごいって……おまえはもっと自由に飛び回ってるだろう? 速度も高度もセスナなんて比較にならないくらい」
「ううん」
グリペンの声が一気にしぼんだ。
「私は……飛べない」
「飛べないって」
「ハルカが言ってた通り、私はテストでも実戦でもきちんと飛べたことがない。途中で制御不能になって帰還させられている。戦力としては全然期待できない、
「そこまで言うことないだろう」
「周りがそう言ってる」
「……」
どう返してよいか分からず慧は話題を切り替えた。
「理由は分からないのか?」
不安定の原因、機能
グリペンは首を振った。
「何度診断しても異状はないって。症状は確認できてもそこに
「ただ?」
「私は……何かが欠けてるように思う」
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