始 動 二〇一七年七月 2/2



          *



ずいぶんと派手にやってくれたな、おかげでこちらは苦情の山だ」


 マホガニーデスクの向こうで初老の男がにやけている。ていねいに七三で分けられた灰色髪、けたほお、スクエア形の眼鏡めがねも相まり一見図書館の司書のようにも思える。だが服装はシャープな制服姿で肩に金の階級章があった。さくらぼしが四つ、そんなマークをつけられる人間は自衛隊にも数えるほどしかいない。とうごうばくりようちよう、制服組のトップだった。


 男性は人差し指で机をタップした。


いるくう)はカンカンだぞ。指揮系統もようげき管制も無視して好き勝手やりやがって。今後、ほんの実験飛行には付き合わんと大層な剣幕だ。くうばくちようは防大のせんぱいだから僕もあまり無下にはできん。どうするつもりだね」


「どうもこうも、適当に抑えといてください」


 しろどおりいんぎんれいに言い放った。はちきれそうな腹を突き出し唇をゆがめる。


「ザイが来たにもかかわらず滑走路の穴ぼこいくつかで本土の被害を抑えたんです。苦情どころか感謝されてしかるべきですよ。むしろあの時アニマを飛ばさなかったらどうなっていたことか。の大損害に詰め腹切らされるのはほかでもない空自でしょう。クレームをつけるにしてももう少し周囲の状況を理解してからにしてほしいですね」


「君、それを僕に言えというのか?」


「言い方はお任せします。内部調整は統幕長のでしょう」


 男性は天井をあおいだ。「まったく」と低い声で毒づく。


「君に付き合っていると方々に借りばかり増えていくな。そのうち首が回らなくなったら君にも責任取ってもらうぞ」


「喜んで。ですが、あなたと私で手詰まりになった時は多分この国全部が地獄のかまの中ですよ。さいな貸し借りなどチャラになっているかと」


 男は「違いない」と笑い書類を差し出してきた。


「これは?」


「喜びたまえ、君のプランが通った」


 秘め事を明かすような悪戯いたずらっぽい口調だった。


「感謝してくれよ、JAS39の件でお蔵入りになりかけた議論を引っ繰り返したんだ。かなりなんしたぞ」


「よく通せましたね」


 まゆを動かし書面に視線を走らせる。内容はほぼ満額回答だった。今まで散々議論していたのがうそみたいだ。きつねにつままれた気分になる。


「やはり先のまつくうしゆうが効いたな。あの規模で連中が押し寄せてきたら一基地に一アニマでは防ぎきれない。まぁ幸い今回の件で我が国のアニマ保有数は四機となったからな。多少柔軟な運用もできるようになったわけだ」


「なるほど」


 かんと笑いしろどおりは紙面をはじいた。


 わざわい転じて福となすとはこのことか。ようやく我々は銀の弾丸を手に入れられる。ザイの襲来を防ぐだけではなく敵陣にりこむことも可能になる。いやはやなんと罰当たりな。あれだけ戦死者の出た戦いをおれふくいんと感じている。


「了解です、では早速動き始めるとしましょう。前例のない話ですしな。余計な茶々が入る前にせい事実を作っておきたい」


「……ドーターの集中運用、既存指揮系統からの独立、か」


 男が書類の内容を暗唱する。八代通は「ええ」とうなずいた。くちびるの端をいびつに持ち上げ高らかに宣言する。


「そう、我々はアニマの独立飛行隊を持つのです」

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ガーリー・エアフォース 夏海公司/電撃文庫・電撃の新文芸 @dengekibunko

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