ガーリー・エアフォース
夏海公司/電撃文庫・電撃の新文芸
原風景 二〇一五年六月 1/2
高度が低い。押し寄せる爆音と風圧に歓声が上がる。黄色のプロペラ機だ。三機編隊で
「すごいなぁ、
感嘆の声を上げたのは
「二番機だっけ? あの、真ん中の機体」
「ええ」
と
正直昨日まではあまり乗り気でなかった。中国奥地、
だが今や脳内の気だるさは吹き飛んでいる。血液が
「元海軍のパイロットだっけか、お母さん」
宋おじさんは海上自衛隊のことを海軍と表現した。日本語に
「海上保安庁って聞いてます。なんか救難飛行とかしてたみたいで。あとは民間の飛行クラブでインストラクターやったり、
「本当に飛ぶの好きなんだねぇ」
感心したように言われる。
まぁだからこそ中国まで来て曲芸飛行をやっているのだろう。現地の航空クラブで仲間を集め、競技会で入賞し、大規模なエアショーでの活躍機会をものにした。
(父さんも来ればよかったのに)
ぽつりと独りごちる。
例によって仕事が忙しいのだろうが、母さんの一世一代の晴れ舞台だぞ、少しくらい都合をつけてもよいだろうに。
母親はフライト準備で先に現地入りしていたから、宋おじさんが同行してくれなければ自分も参加できなかったところだ。往復八千キロの大陸横断旅行、非ネイティブの
「そういえば
宋おじさんが娘の姿を探す。言われてみれば
「
走り出した
「
携帯端末を取り出し耳にあてる。ややあって四角張った顔がしかめられた。
「やっぱり見てきます」
明華は年齢不相応にしっかりした少女だが、それでも自分と同じ初中生だ。見知らぬ土地でトラブルに巻きこまれる可能性はゼロではない。自分達家族のイベントに付き合い問題が起きたら謝罪のしようもなかった。というか普段散々
「大丈夫ですよ、探しながらでも演技は見れますし」
重ねて主張すると宋おじさんは
「そうかい? じゃあ僕、ここから動かないようにするんで。迷ったら戻ってきて」
「はい」
……話中音、だめか。
仕方ないと割り切ってメッセンジャーを起動する。自分達が探している
(あ)
昨晩開封したメッセージが残っていた。やたらと
『来てくれてありがとう! お父さん予定あわないとか言うし、
いい年した
『そういえば、こっちの飛行クラブで機材借りられそうだよ。
どくりと
(というか……覚えてたのか)
子供の時のやりとり、自分達が何気なく交わした会話を。
返信しかけて首を振る。だめだ、今は
「咦,怎么好像多了一台飞机?(あれ? なんか一機増えていないか)」
中国語の会話に耳を引かれる。
振り向くとデルタ編隊のプロペラ機が見えた。一番機を先頭に二、三番機が
(なんだ?)
母親のチームは三機編成のはずだ。四機での演技など予定されていない。どういうことだろう、ひょっとして
不明機は奇妙なシルエットだった。
観客席がざわめいた。不明機が速度を上げている。編隊との距離が徐々に縮まっていた。何をしている、危ない、ぶつかるぞ。方々から聞こえる叫びは、だが
不明機の機首がストロボライトのごとく
爆発が生じた。
観客の声が悲鳴に転じた。
何が起きているのか。
理解できない。
母親の機体が回避機動を取っていた。スモークを吐き懸命にブレイクしようとする。プロペラ機の旋回半径は小さい。うまく軸線をずらせば、そうそう砲撃にはつかまらないはずだった。だが不明機は常識外れの機動で
「やめろ」
悲鳴が
心臓を
不明機の射撃。間一髪、二番機が
続く砲撃が機体の中央を
「あ……」
ドンと重い
──逃げてください、係員の指示に従って避難、避難を。
サイレンと待避アナウンスがようやくのことで
だが動けない。
目に映るのは黒煙と
なんで、一体どうして。
携帯端末が手から滑り落ちる。
悲鳴と爆音が混ざり合う中、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます