二年後 二〇一七年六月 上海沖百五十キロ 2/2
──一瞬、死を覚悟した。破壊とそれに伴う苦痛を予測した。だが最期の時はいつまでたっても訪れない。船は揺れ窓の外に火の雨が降っている。しかし船室にはわずかな
(何が)
ザイが……
ありえない光景だった。
(飛行機?)
赤い。
所属不明機は急角度でバンクすると旋回、降下中のザイに追いすがった。翼端のミサイルが切り離される。数秒慣性で
今度は疑うべくもなかった。ザイが撃墜されている。事故でも同士討ちでもなく人類の武器によって打ち倒されていた。
(は……ぁ)
熱い吐息が
……いいぞ、いいぞやっちまえ。連中に好き勝手させるな。一機残らず
赤い戦闘機は軽やかに身を
圧倒的だった。たった一機で所属不明機は制空権を取り戻しつつある。夢でも見ているのか。だが現実に空からガラス細工の機影は失われつつあった。
「すごい」
口に出した言葉は
「隈,这有点不对劲吧。(おい、なんかおかしくないか)」
「飞下来了!(
気づけば
(助けなきゃ)
「
「不去救他们吗?(助けにいかないんですか)」
面食らった表情で見下ろされる。
「多亏那架飞机,我们才得以平安呢。(あの飛行機が来たおかげで
だめだ、
こうしている間にも戦闘機との距離は開いていく。今以上離れれば近づくことも難しくなるだろう。
どうする。
迷いは瞬時に断ち切られた。タラップから離れ後部ハッチに向き直る。上下の開閉レバーを操作し力任せに押し開けた。
「隈! 你干什么啊!(おい! おい何してるんだ!)」
一瞬、明華の制止が聞こえたように思えた。だが立ち止まらない。深呼吸を一回、海に飛びこむ。波を
(一体何をやってるんだ、
違う。
自分はこの戦闘機に希望を見たのだ。ザイに
(せめてパイロットだけでも助けられたら)
機体の背に上り中腰で進んでいく。
自衛隊機なのか?
日本の飛行機がたった一機で中国近海に飛んできた。いまいち理解しがたい状況だ。しかも全体が赤に発光する奇妙な機体、救援にしては不可解すぎる。
そしてまたキャノピーもおかしな形状だった。ガラスではなく
本当に人が乗っているのか、ひょっとして無人機ではないのか、不安になりしゃがみこむ。非常用の開閉コックを探すもそれらしきものは見当たらなかった。
「おい!」
たまりかねて
「救命
返事はない。歯ぎしりしてもう一度、装甲板を
瞬間、
爆発かと思い後じさる。だが続いて
(え?)
一瞬自分の見ているものが信じられなかった。
人形のような少女が横たわっている。ミルク色の
「おい……」
息を
灰色の
「あ、
怪しいものじゃないと告げかけた時だった。
──!?
気づけば少女の顔がすぐ前にあった。柔らかな感触が口元に押し当てられている。キス……されたのか? 胸元にしがみつかれ唇を重ねられている。事態を認識できた
ややあって細い
え?
遠くからヘリのローター音が聞こえてくる。熱気を
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