二年後 二〇一七年六月 上海沖百五十キロ 1/2
山? いや違う。
何が起きたのか、混乱した意識が結論を導き出す。攻撃を受けたのだ。船体中央に致命的な一撃を受け真っ二つに
「
吹きすさぶ風を圧して
「早く中に入って! もうここ閉めちゃうって」
轟っと爆音が駆け抜けた。
ザイだ。
フリゲートが爆発した。艦橋が
「慧っ!」
明華の声が悲鳴のようになる。
「隈,他们来了!」
直後、突き上げるような
顔を上げる。甲板上はひどい有様になっていた。マストが傾き、切れたケーブルがぶらさがっている。アッパーデッキの
恐ろしい光景だった。人体がオブジェのように折り重なり破壊されている。気づけば口元を
どのくらい放心していただろう。激しく肩を揺さぶられた。気づけば
「大丈夫!?
「……ああ、うん」
動揺を抑え立ち上がる。実際まったく大丈夫ではなかったが、弱音を吐いてもいられない。何せ同年代の少女がいち早く立ち直り駆けつけてきたのだ。男の自分がいつまでも
くそっ。
しっかりしなくては。ここはもう戦場だ。
もう一度周囲を見渡す。一体何があったのか、敵に攻撃された? だが目立った火災は見当たらない。であればどうして。
はっと気づいて
「だめだ、沈む」
「土手っ腹に穴が
明華は
「逃げなきゃ」
「逃げる? って、どこへ」
陸地ならともかくここは海の上だ。船が沈んでしまえば行くところなどない。一体どうするつもりかと思ったが。
「船の後ろに救命
右手を引かれる。傾いた甲板をものともせず彼女は走り出した。
「心配しないで、慧は絶対あたしが守るから」
(なんだよもう)
こんな時でも保護者気取りか。彼女の中で自分はいつまでたっても泣き虫の
「一人で行ける」と告げ腕をほどく。心なしスピードを上げ彼女の前に出た。
障害物をかわしながら艦尾にたどりつく。
「我要上船! 我要上船!(乗ります! 乗ります!)」
「那是空军的战斗机啊!(空軍の戦闘機だ!)」
葉巻に
やられるな。
二年近くザイとの戦闘を見てきた自分には分かる。あの機体じゃ
解放軍機の翼下から白煙が
「完全不行啊!(全然だめじゃないか!)」
避難民の
「
明華が声を張り上げる。振り向くと最後の乗員が救命艇に乗りこむところだった。まだ甲板に人は残っているがもう待つ気はないらしい。実際船の角度は危険なくらい傾きつつあった。
「要开出去则(出すぞっ!)」
艇内に駆けこんだ瞬間、後部ハッチが閉められた。安全ベルトをつける間もなくロックの解除音が響く。すさまじいGが
「啊啊(ああ……)」
前席の中年男性が
窓の外は地獄絵図と化していた。そこかしこで黒煙が噴き上がり船が傾いている。波間に浮かんでいるのは破片か、あるいは人か。
「妈的,日军在搞什么鬼。这船队里边不是还有日本人吗。(
男性の
「总之赶紧离开战场(とにかく戦場から離れて)──」
船員同士が声高に話し合った
必死で
ザイ。
胃の
ならばもういっそここで。
「又来了!(また来るぞ!)」
風切り音が大きくなる。周囲に動く船はない。だとすれば目標は自分達だろう。
爆発音。
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