*Ⅳ* 6/9
*
翌日、基地への訪問を取りやめた。
祖父母には体調不良だと説明してある。実際熱っぽかったし
それをグリペンや
(なんなんだよ……ったく)
裏切られた思いだった。いや、好意的な解釈もできるのだ。ザイから流用したパーツはあくまで部品レベル。スクラップヤードで拾ったネジを使ったようなもの。だからグリペンはザイと違う。あんな悪魔のような存在ではない。
だが事実が楽観を否定する。
つまりブラックボックスなのだ。ザイのコンピュータ? か何かを回収し
今こそ自衛隊員の恐怖が理解できた。仲間を殺した存在の同族が基地内を歩き回っている。人間のような顔で
(もう、やめよう)
彼女に
……くそっ。
なんで自分が罪悪感を覚えているのだ。あいつはザイなんだぞ。しかもその事実を隠して何食わぬ顔で付き合っていた。正体がばれたからってショックを受けるとか、虫がよすぎるだろう。だったら最初から話しておけっていうの。自分を信用していたならなおさら。
コツコツとノックの音が
開いた扉の
「
「……」
「体調直ったら連絡がほしいって」
彼女はしばらく返事を待っていたが、ややあって
「ご飯は食べにきてよね」と扉を閉める。
音が消え静寂が戻ってきた。
次の日も、その次の日も基地には行かなかった。
電話連絡は翌日もう一度来たのを最後に途絶えた。先方も
午前十一時、慧は浅い眠りから目覚めた。
(どうするつもりだろう)
予定通り飛ぶのだろうか、あるいは仕切り直すのか。いくらなんでもわずか数日で自分の代わりが見つかるとも思えない。であればテストを延期する? だが
「ああっ、もう」
髪を
とりあえず朝食でも食べるか。昨日も
視線がビニールの
あいつのお
持って帰ったきり放置していた。確か家に帰ってから開けろと言われてたっけ。何を入れていたのだろう。食べ物なら悪くなっているかもしれない。だとすれば放っておくわけにもいかなかった。
気が進まぬまま袋を取り上げる。シールをはがし開封。
(なんだ……?)
カラフルな毛糸の編み物が出てくる。白とオレンジ、赤の混ざった細長い物体。え、これ、マフラーか?
よく見ればところどころに
なにがしか意図があるのではと思い袋を探る。底から数枚の便せんが出てきた。
『
いつもありがとう。
慧のおかげでわたしも飛ぶのがこわくなくなってきました。テストフライトがんばります。なにかお礼をしたいとギホンのひとに相談したら「手づくりのものがいちばん。男なんかいちころ!」といわれました。でもなにをつくったらいいかわからないので色々本をよんでべんきょうしてマフラーにしました。いちころですか』
だから季節を考えろよ。あとそのアドバイスをした人もどうなんだ。戦闘機相手に何をいちころにさせようというのか。
相変わらずどこかズレている。
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