*Ⅳ* 4/9
「何これ?」
グリペンが不思議そうに紙包みを見つめる。
隊員食堂の角席で慧は彼女と向き合っていた。机の上にカラフルな花柄のパッケージが置かれている。赤と黄を基調にした色鮮やかな包装。
「お
「お菓子?」
キツネ色のパンをねじり合わせたような形状。表面には砂糖がまぶされ白く光っている。大きさは十センチ程度、それが五本ほど入っていた。
「
「中国の……」
とりあえず一本手に取り
グリペンはしばらく戸惑っていたが、ややあって思い切ったようにかじりついた。ごりっと鈍い音が一回、灰色の目が揺れる。
「硬い」
「
実演してみせるとグリペンは手元の
「……おいしい」
「そうか、よかった」
「
興味深そうに
「
「……分からない」
「まぁ日本じゃあんまり知られてないかもな。
「行ってみたい」
「今は無理だろ。まぁザイをなんとかできたら案内してやるよ。ああ、そうだ」
携帯端末を取り出す。検索画面を立ち上げ「常熟」と入力した。
指が止まる。新着リンクがトップに現れていた。At Changshu 8th June……六月八日常熟、十日前?
自分達が脱出したあとだ。何か調査でも入ったのか、様子を確認しようとサムネイル画像をタップした、
……!
全身から血の気が引いた。
信じられない光景が映し出されている。いや、ある程度覚悟はしていた。あれだけ
表示された写真には……何もなかった。
二枚目の写真、三枚目の写真、四枚目の写真も同じ光景が広がっている。
(……っ!)
吐き気がこみあげてきた。
消しやがった。
まるで
なんてことを……しやがる。
これではもう戻れない。仮に住民が帰還しても造り上げる町はまったく別のものだ。
ひどすぎる。一体なぜここまでする必要があるのか。単純に領土を広げたいなら人間を追い出すだけでいいだろう。町並みまで
(狙って?)
いや違う、違うのか。
ザイがあえて一地方都市を目の
「
グリペンが不思議そうに首を
「悪い、ちょっとぼうっとしてた」
「体調悪いの?」
「そういうわけじゃないんだろうけど……寝不足かもな」
「きちんと寝て」
「分かった」
「私はいつでも眠れる。空でも、歩きながらでも」
「それはだめだろう」
意識障害と睡眠を一緒にするな。肩の力を抜いた
「お返し」
「は?」
「慧にプレゼント。いつも助けてくれるから」
まじまじと見つめる。青地の
「ここでは開けないで。家に帰ってから」
「なんで?」
「恥ずかしい」
「……」
何が入ってるのか余計気になってくる。だが開けるなというのを開けるのも
「まぁ、礼を言っておくよ。ありがとう」
「
「
マーラーって作曲でもするつもりか。
グリペンは「じゃあ」と立ち上がった。
「食事取ってくる。慧の分も……お、お、おごりで」
「無理するなよ、自分で出すから」
「いい、私の
さいですか。
ならばお言葉に甘えようと頭を下げる。グリペンはしかつめらしい顔で
(はぁ)
呼吸を整える。落ち着け落ち着け、ただでさえあいつは不安定なのだ。自分のショックを伝染させちゃいけない。忘れろ、忘れろ、忘れろ。
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