*Ⅱ* 4/4
「慧! 慧、無事だったの!?」
警衛所に入るなり
「ひどいことされなかった?
「大丈夫だよ、大したことない」
ぶっきらぼうに答えて身を引く。周囲の視線が気になった。同年代の女子に世話を焼かれる男など世辞にもみっともいいものではない。
制服姿の自衛隊員が疲れきった表情で立ち尽くしている。首や顔にひっかき傷と
「誤解とは言え手荒な
平然と言い放ってくる。
正面から向き合い一礼した。
「いえ、こちらこそ誤解を招くようなことをしてすみません。以降、夜の基地には近づかないようにします。お騒がせして申し訳ありません」
話を合わせる。まさか
「ではせめてご自宅まで送らせてもらえないだろうか。車を出させる」
「お
「なるほど、ではそのように」
そらぞらしいやりとりの末に話を打ち切る。警備の隊員につきそわれ外に出た。扉を抜ける
「約束は覚えてるな」
「……ええ」
約束とはよく言ったものだ。ほとんど強制だろうに。グリペンという少女の面倒を見る。兵器として安定させる。一体どうしたらという疑問にはついぞ答えてもらえなかったが、取り急ぎ明日基地を再訪するよう言われている。詳しい話はそれかららしかった。
『何、ただでとは言わない。君、航空学生を受験したいらしいな。なんなら
一体どこまで個人情報が流出しているのか、空恐ろしくなる。最初は自分の名前も知らなかったようだから
「じゃあまた明日」
「おう、待ってるぞ」
短く
「本当に大丈夫?」
明華が心配そうにのぞきこんでくる。「大丈夫だって」と答えてスタンドを
無人の夜道を走っていく。しばらくはどちらとも無言だった。明華も何を
「悪かったな」
ぽつりとつぶやく。
「すまなかったって言ってるんだ。
引き離され彼女の身を案じたからこそ分かる。親しい相手が傷つくのはひどく
「これからはなるべく心配かけないようにする。明華を一人にはしない。だから……今日のことは
「え、え、え」
明華は目を丸くした。信じられないものでも見たようにぱちぱち
「ど、どうしちゃったの
「なんでだよ!」
ひどい言われようだった。なんだよもう、人が
だがこのくらいの距離感がやはり心地よい。ようやくのことでいつもの関係が戻ってきた思いだった。
もちろん空への夢を
だがしばらくは明華のそばにいよう。この異邦の幼なじみを大事にしよう。少なくとも彼女の家族の安否が分かるまでは。それが九年間自分を守り続けてくれた友人に対するせめてもの恩返しだった。
(と言ってるそばから明日基地行きなんだけどな)
果たしてどういう名目で外出するべきか、頭を悩ませていると、不意に明華が「あれ?」と言った。
「なんだろ、人がいっぱい」
前方右手、陸上競技場の入り口に通行人がたむろっていた。何かイベントでもあるのかと思ったが、そういうわけではないらしい。街頭ビジョンのニュースに足を止めている様子だった。
ブレーキをかけて停車する。映し出された番組の内容を見て息を
明華も同じ気持ちだったのだろう。ハンドルを持つ手に力がこもっている。
「……
「うん」
すがるような
『本日午後四時、
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