*Ⅴ* 3/9
「おい、いたか! こっちはだめだ」
「こっちにもいない!
黒服の男達が視線を走らせている。インカムにサングラスというあまりにも不審な格好だった。いかつい
「まだそう遠くには行ってないはずだ。探せ!」
「くそっ、手間かけさせやがって」
周囲の
「行った?」
「行った……けど」
よぉっし! とガッツポーズして声の主が出てくる。ウェービーなロングヘア、宝石を思わせる
「い、イーグル!?」
「へ?」
少女は虚を突かれた様子で
「なんでイーグルのこと知ってるの? って、ん? んんん?」
額がぶつかりそうなくらい詰め寄られる。ややあって大きな目が丸くなった。
「やっぱり! こないだテストの時に見た人だ。お父様の
「あ、ああ」
うなずいた
「どちら様で?」
氷のような口調。声音に静かな怒気が感じ取れる。何と
「ば、バイトの子だよ。こないだ入ってきたばかりで、
「その割には距離近いけど」
「き、帰国子女だからじゃないかな。ほら、アメリカ人とかスキンシップ盛んだっていうし」
「アメリカの人なの?」
「じゃないかな、詳しくは聞いてないけど」
「ふぅん」
追及が
「一体どうしたんだ? なんか追われてたみたいだけど」
「そーそー、無茶苦茶しつこいんだよ。
「基地に連絡した方がいいんじゃないか」
声を
「ん? あれが基地の人だよ」
「は?」
「護衛だかお目付役だか知らないけど、ずーっと橫くっついてるんだもん。
脱走中かよ!
なんてこった! 不正行為に荷担してしまった。自衛隊から機密兵器を
固まるこちらを気にした風もなく、イーグルは
「
「そうなのか……」
「米軍の人達と一緒に
周りの客が
しかし
「で? おまえ、このあとどうするんだよ。基地の人、振り切ったはいいけど
「え?」
「そもそも移動する足がないだろ。この町、徒歩だとすごく動きづらいぞ」
何せロードサイド店が圧倒的に多い車社会だ。駅前も
「君はどうしてるの?」
「
イーグルはしかつめ顔で考えこんでいたが、ややあって両手を
「そうだ! 君に案内してもらえばいいんだ。自転車乗せてもらって!」
「はぁ!?」と叫んだのは
「あなたね、見て分かんない? 今
「じゃあ三人で遊ぼう!」
「……!?」
放っておくとどんどん状況が悪化しそうだったので割って入る。明華にアイコンタクトで謝罪しイーグルに向き合った。
「悪い、俺達今日はあんまり時間がないんだ。案内はまた余裕のある時にさせてくれ。代わりに何か好きなものおごってやるからさ」
「え? なんでも」
「一品だけな。ほら、座れよ。飲み終わるまでは俺達も付き合うから」
「えーっと……じゃあ、じゃあね、シェーキ! イチゴ味!」
目を輝かせリクエストしてくる。「分かった、分かった」と答えて明華の耳元に
「すまん、ちょっと相手してやってくれ」
「なんであたしが!?」
「見ての通り子供みたいな
「……」
カウンターに向かいストロベリーシェーキを注文する。急いで席に戻ると明華が
「慧? アニマとかドーターってなんのこと? さっきからこの子わけの分からないことばかり言ってくるんだけど」
機密保持意識の
「バイトの用語だよ、肩書きとか商品コードとかそういうやつ」
必死に
「てかおまえ、忙しいんじゃないのか? 配属後の訓練とか打ち合わせとかあるだろう」
金髪の少女はシェーキのストローを吸った。
「訓練なんかもうとっくに終わらせたよ。シミュレータ使ってザイの一個小隊を撃破、四機全機
「……すごいな」
シミュレータって、グリペンが四苦八苦していたプログラムだよな? あれを簡単にクリアしたのか。しかもザイ四機相手に。さすが大口を
彼女は「それに」と言葉を続けた。
「どうせイーグルは一人で飛ぶし、打ち合わせとか必要ないよ。空に上がっちゃえばやることはいつも同じだし」
「そう……なのか?」
「
イーグル一人、という言葉に反応する。待て、あいつは、グリペンはまだ健在だろう? 確かに戦力外通告は受けたものの実際の
「グリペンは……どうしてるんだ?」
恐る恐る
「君もあいつのこと気にするんだ」
サンダルの
「お父様と同じ。イーグルがそばにいるのにあんな出来損ないの子気にかけて。わけ分かんない。イーグルの方がずっとずっと役に立つのに」
「それは分かったから……で、どうなんだよ。まだ基地にいるのか」
必死に食い下がるとイーグルは
「いるよ」
ほっと肩の力が抜ける。よかった、なら。
だが彼女はあくまで淡々とした調子で続けた。
「でもそれも明日でおしまい。運用終了が正式決定したみたいだからドーターごと処分されるんじゃない? もう今晩にも工場に運ばれるはずだよ」
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