第14話 コンビネーション・ブレイク

 決勝戦。ジャイロたちとの戦いのさなか、セリカの猛火竜レッドドラゴン業炎竜ブレイズバーンドラゴンに進化した。しかし、進化したとはいっても、ユータたちはジャイロたちの猛攻に防戦一方。ユータは、この危機を打開する策をひねり出そうと、耐えながら、頭をフル回転させていた。


「あった――」


 一つだけ、この状況を打開できる方法があった。それは先刻、リヒトマンに叩き込まれたこと。


「技は、状況に合わせて使い分けるんだったよな」


 ただ、それは、あまりにも細い賭けだった。その技は一度も成功したことがないどころか、技としてはいない。


「足りない部分は想像力で補う」


 ユータはヴァイクの言葉をつぶやく。

 ユータは一発しか喰らっていない技を断行しようとした。あまりにも無謀。自殺で愚策ともいえる行動。しかし、ユータの決断は、この死地を脱する活路を開くことになる。


「いくぞっ」


 ユータは、天女還つばめがえしの構えを取る。この技は、相手の攻撃が刀に触れる瞬間、いなし、反撃する、極めて難易度の高い技だ。タイミングを見計らうため、体勢を低くとる。

 その時だった。


業炎砲ブレイズ! 」


 セリカの声が闘技場に響く。ジャイロとハイドは業炎竜の強力な炎が飛んでくると思い、意識がセリカに向く。 

 しかし、炎は飛んでこない。二人は一瞬、混乱状態に陥った。


 ユータは、この一瞬を見逃さなかった。天女還しの構えから、地竜昇撃ちりゅうしょうげきに切り替える。この技は、二人の攻撃の手が緩んでいる今、繰り出すのは容易だった。何しろ、力技で、相手をかち上げればいいのだから。

「君たちの連携を、断ちきる! 」


地竜昇撃・改ちりゅうしょうげき・かい


 ユータが刀で地面をえぐりながら、二人をかち上げる。意識外からの突然の反撃に、二人の連携は大きく崩された。ハイドは、とっさに斧で防御したため、大きくあとずさる程度だが、ジャイロは、かち上げをまともにくらい、空高くまで吹っ飛ばされた。


「ユータ選手の九死を救うセリカ選手の神の一手! 地獄の底に、一筋の蜘蛛の糸! ユータ選手は、この隙を逃さず、謙虚に好機を引き寄せる!」


「セリカ選手のはったりが利きましたね。これで、ジャイロチームに大きな隙が出来ました」


 二人の体勢が大きく崩れている今がチャンスだった。

 セリカが、ハイドに向かって狙いを定める。


「仕留める」


業炎砲ブレイズ


 巨大な火球がハイドに向かって放たれ、ハイドは炎に包まれる。


「もう一発」


 二発目の火球が、かろうじて耐えていたハイドを余すところなく焼ききっていく。ハイドは、耐えるだけの体力が尽き、気絶した。

 セリカがハイドを仕留め、空高く舞い上がったジャイロが落ちてくる。セリカは、ジャイロの落下地点に狙いを定める。


「空中で身動きが取れない今なら当てるのが容易。落ち際を狙う」


 セリカがハナコに合図をする。


「とどめっ」


『業炎砲』


 火球が、ジャイロを襲う。ジャイロは、ハナコが放つ火球の軌道の上で、一時停止をしたように、ふわりと浮いた。火球がむなしく通り過ぎていく。


「避けられた!?」


「おしい! 勝利の女神は平等主義者でした!セリカ選手最後の一発をここではずす!」


 セリカは一連の流れから気づき、ハッとした。


「そうか、今までジャイロは、武器の扱いが少しうまい程度のやつだと思っていた。しかし、実態は違う。武器を軽くしていたんじゃない、浮かせていたんだ。おそらく、あいつの能力は、念動力。気を付けて、思った以上に厄介かもしれない」


 セリカの言葉を聞き、ジャイロは笑う。


「こんな短時間で、タネを見破られるとは驚いたよ。しかし、それが分かったところで、対応しきれるかな。何しろ、そっちの女の子は魔力切れなんだろ?」


 ユータが振り向く。セリカが、地面に臥している。


「ごめん、三発撃っちゃったから……、もう無理。ユータ、――勝って」


 セリカは気絶した。


「ここで、まさかの一対一」


「個人の地力が試されます」


「最後に残ったのは俺らか」


 ジャイロが、近づいてくる。


「そのようだね」


 ユータは刀を構える。


「勝っても負けても、恨みっこなしだ」


 闘技場の中心、二人の男が対峙する。


「さあ、――戦おう! 」


 ジャイロは、その場で何度かジャンプした。

 トン、トーン、ト――ンと、徐々に、滞空時間が長くなる。


宇宙閃双コスモ・リッパー


 ジャイロが跳躍し、体が空中に留まっている。そのまま二振りの剣から水と炎の魔力を開放し、魔法の勢いで突撃してくる。


「俺も、負けるわけにはいかないんだよ。俺は……、俺たちはこの戦いで強くなる。これは、ハイドの分も乗せた、俺たちの一撃だ!」


流水炎舞マーブルスクリュー飛行形態スカイロケット


 ジャイロの双剣からあふれ出る魔力が爆発的に増加し、突進の勢いがさらに増した。

 ジャイロは、剣から発した魔法の勢いで、飛行機のように滑空し、ユータをすれ違いざまに切りつける。


「ジャイロ選手! 水と炎の魔力を後方に放ち、飛行機よろしく凄まじい体当たりだ!」


「すれ違いざまの斬撃で相手をじわじわ削るもよし、それこそ、全力の体当たりを喰らったら、一撃でやられてしまう威力を持っていますよ」


 ユータは、刀を構え、これを受け止める。受け止められたジャイロは、そのままの勢いで飛んで行った。


「逆噴射」


 後ろに跳んで行ったジャイロが戻ってくる。ユータは、反応が間に合わず、ジャイロの体当たりをもろに受けてしまった。飛ばされた後、空中で一回転し、地面に着地する。


「直撃! しかしユータ選手、攻撃を受ける直前、刀でガード! 吹っ飛んだ後も、空中で受け身を取ってうまく威力を逃しました!」


「いやー、ひやひやしましたね」


「ハッハーッ! 俺を捉えられまい! このまま押し切ってやる!」


 ユータは、帰ってきたジャイロの攻撃を、横飛びで避け、体勢を立て直した。抜いた刀を鞘に納める。


「どうした! 勝負を諦めたか? これでとどめだ」


 ジャイロが、より一層速度を増して突進してくる。


 会場の空気が震え、衝撃波が放つ音が、遅れて聞こえる。


想像イメージ


 ユータは、腰を深く落とし、柄に手を添わせた。


「ユータ選手、刀を納め、抜刀の姿勢を取った!」


「あの速度であれば、当てれば勝ちですからね。しかし、ジャイロ選手の動きに合わせるのは至難の業。この試合に勝つには、ユータ選手が今までに積み重ねてきたものが勝敗を決めるでしょう」


 ユータは、静かに、深く、リズムを取るように息を吐く。

 ターン、ターン……。タン。

 あの、地底湖で味わった死の深さを。人の中に潜む、濃く、暗い感情を。静寂を。今――。

 ユータの刀が光る。


抜刀ばっとう大鷲堕おおわしおとし』


 二人の影が交差する。ユータの頬から血がツッーと垂れた。

 実況が、何かを叫んだ。

 観客の顔が、驚愕の表情に歪む。

 ジャイロは、空中で勢いを殺され、地に落ち、倒れた。

 

 空白。

 

 静寂の中、ユータは、徐々に、顔をあげる。

 闘技場の照明から、ユータに光が降り注ぐ。

 ユータの世界に、音が戻る。

 興奮、熱狂、歓声――。


「決着――。優勝は、ユータ、セリカチーム!」


 会場は観客総立ちで、若き二人の勝利を労った。

 そして、闘技大会優勝者には、豪華賞品が送られることとなる。

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