第14話 コンビネーション・ブレイク
決勝戦。ジャイロたちとの戦いのさなか、セリカの
「あった――」
一つだけ、この状況を打開できる方法があった。それは先刻、リヒトマンに叩き込まれたこと。
「技は、状況に合わせて使い分けるんだったよな」
ただ、それは、あまりにも細い賭けだった。その技は一度も成功したことがないどころか、技としては一発しか喰らっていない。
「足りない部分は想像力で補う」
ユータはヴァイクの言葉をつぶやく。
ユータは一発しか喰らっていない技を断行しようとした。あまりにも無謀。自殺で愚策ともいえる行動。しかし、ユータの決断は、この死地を脱する活路を開くことになる。
「いくぞっ」
ユータは、
その時だった。
「
セリカの声が闘技場に響く。ジャイロとハイドは業炎竜の強力な炎が飛んでくると思い、意識がセリカに向く。
しかし、炎は飛んでこない。二人は一瞬、混乱状態に陥った。
ユータは、この一瞬を見逃さなかった。天女還しの構えから、
「君たちの連携を、断ちきる! 」
『
ユータが刀で地面を
「ユータ選手の九死を救うセリカ選手の神の一手! 地獄の底に、一筋の蜘蛛の糸! ユータ選手は、この隙を逃さず、謙虚に好機を引き寄せる!」
「セリカ選手のはったりが利きましたね。これで、ジャイロチームに大きな隙が出来ました」
二人の体勢が大きく崩れている今がチャンスだった。
セリカが、ハイドに向かって狙いを定める。
「仕留める」
『
巨大な火球がハイドに向かって放たれ、ハイドは炎に包まれる。
「もう一発」
二発目の火球が、かろうじて耐えていたハイドを余すところなく焼ききっていく。ハイドは、耐えるだけの体力が尽き、気絶した。
セリカがハイドを仕留め、空高く舞い上がったジャイロが落ちてくる。セリカは、ジャイロの落下地点に狙いを定める。
「空中で身動きが取れない今なら当てるのが容易。落ち際を狙う」
セリカがハナコに合図をする。
「とどめっ」
『業炎砲』
火球が、ジャイロを襲う。ジャイロは、ハナコが放つ火球の軌道の上で、一時停止をしたように、ふわりと浮いた。火球がむなしく通り過ぎていく。
「避けられた!?」
「おしい! 勝利の女神は平等主義者でした!セリカ選手最後の一発をここではずす!」
セリカは一連の流れから気づき、ハッとした。
「そうか、今までジャイロは、武器の扱いが少しうまい程度のやつだと思っていた。しかし、実態は違う。武器を軽くしていたんじゃない、浮かせていたんだ。おそらく、あいつの能力は、念動力。気を付けて、思った以上に厄介かもしれない」
セリカの言葉を聞き、ジャイロは笑う。
「こんな短時間で、タネを見破られるとは驚いたよ。しかし、それが分かったところで、対応しきれるかな。何しろ、そっちの女の子は魔力切れなんだろ?」
ユータが振り向く。セリカが、地面に臥している。
「ごめん、三発撃っちゃったから……、もう無理。ユータ、――勝って」
セリカは気絶した。
「ここで、まさかの一対一」
「個人の地力が試されます」
「最後に残ったのは俺らか」
ジャイロが、近づいてくる。
「そのようだね」
ユータは刀を構える。
「勝っても負けても、恨みっこなしだ」
闘技場の中心、二人の男が対峙する。
「さあ、――戦おう! 」
ジャイロは、その場で何度かジャンプした。
トン、トーン、ト――ンと、徐々に、滞空時間が長くなる。
『
ジャイロが跳躍し、体が空中に留まっている。そのまま二振りの剣から水と炎の魔力を開放し、魔法の勢いで突撃してくる。
「俺も、負けるわけにはいかないんだよ。俺は……、俺たちはこの戦いで強くなる。これは、ハイドの分も乗せた、俺たちの一撃だ!」
『
ジャイロの双剣からあふれ出る魔力が爆発的に増加し、突進の勢いがさらに増した。
ジャイロは、剣から発した魔法の勢いで、飛行機のように滑空し、ユータをすれ違いざまに切りつける。
「ジャイロ選手! 水と炎の魔力を後方に放ち、飛行機よろしく凄まじい体当たりだ!」
「すれ違いざまの斬撃で相手をじわじわ削るもよし、それこそ、全力の体当たりを喰らったら、一撃でやられてしまう威力を持っていますよ」
ユータは、刀を構え、これを受け止める。受け止められたジャイロは、そのままの勢いで飛んで行った。
「逆噴射」
後ろに跳んで行ったジャイロが戻ってくる。ユータは、反応が間に合わず、ジャイロの体当たりをもろに受けてしまった。飛ばされた後、空中で一回転し、地面に着地する。
「直撃! しかしユータ選手、攻撃を受ける直前、刀でガード! 吹っ飛んだ後も、空中で受け身を取ってうまく威力を逃しました!」
「いやー、ひやひやしましたね」
「ハッハーッ! 俺を捉えられまい! このまま押し切ってやる!」
ユータは、帰ってきたジャイロの攻撃を、横飛びで避け、体勢を立て直した。抜いた刀を鞘に納める。
「どうした! 勝負を諦めたか? これでとどめだ」
ジャイロが、より一層速度を増して突進してくる。
会場の空気が震え、衝撃波が放つ音が、遅れて聞こえる。
「
ユータは、腰を深く落とし、柄に手を添わせた。
「ユータ選手、刀を納め、抜刀の姿勢を取った!」
「あの速度であれば、当てれば勝ちですからね。しかし、ジャイロ選手の動きに合わせるのは至難の業。この試合に勝つには、ユータ選手が今までに積み重ねてきたものが勝敗を決めるでしょう」
ユータは、静かに、深く、リズムを取るように息を吐く。
ターン、ターン……。タン。
あの、地底湖で味わった死の深さを。人の中に潜む、濃く、暗い感情を。静寂を。今――。
ユータの刀が光る。
『
二人の影が交差する。ユータの頬から血がツッーと垂れた。
実況が、何かを叫んだ。
観客の顔が、驚愕の表情に歪む。
ジャイロは、空中で勢いを殺され、地に落ち、倒れた。
空白。
静寂の中、ユータは、徐々に、顔をあげる。
闘技場の照明から、ユータに光が降り注ぐ。
ユータの世界に、音が戻る。
興奮、熱狂、歓声――。
「決着――。優勝は、ユータ、セリカチーム!」
会場は観客総立ちで、若き二人の勝利を労った。
そして、闘技大会優勝者には、豪華賞品が送られることとなる。
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